真汰は俺にしか聞こえないくらいの声で呟き、そのまま二階へ上がっていった。
真汰は悟ったのだろう。
さっきの雫ちゃんの姿で、少女が抱えているものに。
そりゃ、すぐには無理だ。
俺だって、今は覚悟のかけらもない。
雫ちゃんだって、自分のことを話す勇気なんてまだないだろう。
けれど、いつかは………。
俺はギュッと自分の手を握り締めた。
爪痕が残るくらい、強く。
「うん、よろしく。俺のことは博でいいから」
少し遅くなってしまった返事を、俺は笑顔を向けて言った。
雫ちゃんは、ぎこちなく微笑んだ。
それは、初めて雫ちゃんが見せてくれた笑顔だった。
たとえそれが作り笑顔だとしても、嬉しかった。
少しだけ心を開いてくれた気がして。



