「聖、起きろ」

「………むにゃ」

「起きろ」

「………むひゃっ」

 何度呼んでも起きない聖に、和己がうんざりしながらため息をつく。
 聖の広い額を少し強めに叩いた。
 ぺチ! 少々情けない音を立てながら寝ぼけ眼の聖が目を覚ます。

「ん……アレ?」

 ぼんやりとしながら上半身を起こして、叩かれた額に手をやる。

「光成、もっとやさしく起こしてくれよ」

 自分を起こしてくれた人物を、まだぼんやりした瞳に映し出す。

「あ、和己? わりぃ……寝ぼけてた」

 昔の仲間の名を呼んだ気まずさから、スゥッと意識が戻ってきた。

「別にいい。いま買出しから帰ってきた」

「お疲れさん! ん? その顔どしたん?」

 聖にいわれ、あらためて明美の手の平形に染まった頬に手を添える。

「……勝利の勲章」

 明美に殴られた瞬間、その衝撃から目の前に星が飛んだことを思い出しながら答えた。

「ゾンビが出たのか!?」

「まぁな。安心しろ、明美は無事だ」

 女の子らしく頬を染めた、らしくない明美を思い出して、思わず和己から笑みがこぼれる。

「……くっくっく」

「か、和己……???」

 いきなり笑い出す和己に、聖が驚いてあんぐりと口を開けて見ている。無理も無い。どちらかというと無口で無表情の和己が、急に笑い出すなんて、誰が思うだろう。
 しかも、笑うと大人びた表情が一変して子供っぽくなる。見ているこっちまでが嬉しくなるような、人を惹き付ける笑顔。
 こりゃ、明美が見たら惚れるな……。やっかいなライバルが増えたかもしれないと、聖は唸った。

「和己……明美の前では笑うなよ?」

 不満げな表情を浮かべる聖を見て、そうか。聖は明美が好きなんだった。と、思い出し、彼女の下着を見たなんていったら殺されるな、と和己は聖の肩を叩いた。

「すまない」

「あ? な、なんだよいきなり」

 急に謝ってくる和己に戸惑う。

「これから食事だそうだ」

 行くぞ、と踵を返す和己を慌てて聖が呼び止める。

「なぁ和己、お前の声」

 最初にその声を聞いたときから、気になっていた。
 確信ではなかったが、本当のことを直接本人から聞いてみたかった。

「俺は春日部和己だ。それじゃだめなのか?」

 振り返った和己の表情は、いつものようにポーカーフェイス。

「いや……そうだな、お前はお前だ! なんでもない」

 俺たちには言えないなにかを隠している、そう思わずにはいられない。
 でも、いつか話してくれるときが、きっとくるはずだ。
 頭に浮かんだ疑問を振り払うように飛び起きると、聖は和己の後を追った。