今でも、
時々苦しかった時のことを思い出す。


給料日の日に、あり金全部、
パチンコに使ってしまった時の、
これからどうしよう、という母の暗い顔。


何の脈絡もなく、
突然ふと思い出すみたいに。



私にとって、
ナオや朱音の存在は、現実のものではない。



スクリーンで映画を見ているみたいに、
確かに現実のように、
日常が繰り広げられているが、



それは、ただの幕に写し出された幻影で、
実際に手に取ることは出来ない。



だから、ナオに恋するのは、
映画俳優に恋するようなもので、
現実にはあり得ないことだと思っている。



ナオはいい友達。


社会人になって、
お互い付き合ってる人がいても、
ナオとは、たまに会って飲んでいた。


彼は、時どき

「今度は、真剣だから」

と言って彼女の写真を見せてくれた。



「キレイな子だね」といってのろけ話を聞く。
ずっとそんなことをしてきた。


私にも、付き合って欲しいと言われて、
何度か付き合って来たけれど、
恋してるという感覚がわからないまま、
時間だけが過ぎて、結局実ることはなかった。


だから、ナオに話すほどのことは何もない。

私は、ナオの話を聞いていた方がいい。

ずっとそうしていた。
久俊さんに会うまでは…