何があっても、何もなかったように粛粛と仕事をする。
普段と変わりなく。


「係長?堀田土地開発との打ち合わせどうでしたか?」

「ああ、春か…
どうでしたも、なにも…」
社長から手渡された、レポート用紙に書かれたメモ書きを見せた。


「なんですか?これ」


春がじっと俺の手に自分の手を重ねて、
紙に書かれた図を見つめる。


「春…あの…手…」

このところ、春は幸せ一杯だ。
引っ越す、引っ越さないでやつともめてるけど。

まあ、べつに。
春が幸せなら、それで十分だけど。


「ちょっといいですか」

春は、俺から紙を受け取った。


「これ、朱音の字ですね」


「ああ、社長直々に目の前で書いてもらったんだ」
お絵かきみたいに、鼻歌を歌いながら。


「どうりで」


「いったい、彼女は何をしたいんだ?」
独り言が、口から出てしまった。


春が皮肉って答える。
「ホストコンピュータ…かな」


「おい、冗談じゃないよな」

確かに、太陽みたいな大きな丸に線が一杯引いてあって、
各部署がつなげてある。
ああ、からかわれてるのか?



「それで?彼女はこれを作れと?」


「そうなのか?」


「多分…」



「無理だろ…っていうか、こんな昔のシステムじゃ、
作る意味がない」



「だったら、そうおっしゃれば?」


「クライアントにか?」


「ええ」


「ところで、彼女、コンピュータに詳しいの?」


「どう思います?」


「君の手前、なんだけど、全然わかってない」



「その通りです、係長。朱音未だに手書きの手帳使ってるし、
パソコンは極力使わないです」


「困ったな」


「クライアントにたてつけない?」


「そうだな…」


「人を見てるんだと思いますよ。係長がどんな人物か?」


「ええっ?それで、わざとこんなことするの?」


「さあ…どうでしょう。
私も、朱音のやることは読めません。
がんばってください」