「遅かったね?」


私は、迎えてくれた言葉に感謝した。


「うん。朱音のとこでいろいろあって」


歩きながら、考えごとをしていた。



今日は、私も、とても一人ではいられない。


頭にナオの顔が浮かんだ。
けど、すぐに久俊さんの声にかき消された。


「そっか。なら良かった。
何度も電話しようと思ったんだ。

朱音さんに君が説得されて、もうここには、
戻らないんじゃないかと心配だった」


「ちゃんとここに、帰ってくるよ。
だってもう、

私の帰るとこはここしかないんだし」




今日、はっきり、
そのことがわかってしまった。

私は、一人でも平気で、
ナオは、朱音のことが放っておけない。
それが、愛情じゃないと本人達が断言しても。


私は、言い聞かせるように言う。



「アパートの荷物、運び込んだのか?」


「まだ。でも、必要なものは、
週末にでも、運んでおくから。
処分しなければ、いけないものもあるし。
解約は、今月中でいい?」



「いいのか?春がそういうなら。


そうだね。なるべく早くした方がいいな。
部屋代がもったいない」


私は、アパートを引き払うことを
ためらっていた。


アパートを引き払ったら、
もう、その時は、前を向いて行かなくては。


「朱音さんは?
やっぱり、君に高城君の所へ
戻れって言ってなかった?」



「さあ、
あの二人は、お互いのことに干渉しないから」


「よかった。
春妃はどこにも行かないよね?
俺を置いて、
どこかに行こうなんていわないよね?」


「ん。行かない」


「名古屋に一人で行くのが、
どれほど辛かったか。
これからは、
どこにいくにも、春妃と一緒だ。
君に去られたら、俺、
本当に一人ぼっちなんだ」


「わかってる。見捨てたりしないから」
そうして、私もこの人の手を離すことが出来ない。