「どうぞ入って、
まだ揃って無いものも、多いけど…」
契約したばかりの部屋で、がらんとしている。


「一応、生活に必要なのは、契約したんだ。
あと、布団も一組ならある」


私は、部屋の中に入るのをためらった。

「久俊さん…」



「一人で悩んでいるより、
話を聞いてもらった方がいいだろう?」
と言って、私の背中を押す。


背中から伝わる手の暖かさ。
この人は何でもわかってしまう。


「うん」


「高城とケンカしたのか?」


「うん…」


「それで、逃げ出したんだ」


「うん」


「辛いって言っただろ?
高城と恋愛なんかするのは…」


「恋愛が辛いなんて、珍しいことじゃないわ。
そんなの。
まだ、終わってないもの。わかんないよ」

そういう一方で、
ナオに近づいて、傷つきたくない
という気持ちが働く。


わからない、などと言って、
可能性を残すなんて。

私には、まだそんな力があるだろうか?


「それで、わかったのか?」
私は、首を横に振る。

わかりたくないっていう意味で。

「わかんない。どうしたらいいのか…」
やっぱり、傷つきたくなくて、
久俊さんに頼っている。

ナオから差し出される手は、
無理してでも、取らずに、
はねのけたくせに…


「お前さ、自分の状況わかってるか?」



「身動きが取れなくなってるのは、
自覚してる…」