「こんなところで何してる?」


「はい…」


彼は、私の腕をぐいっと引っ張る。


「顔色悪いぞ、ちょっと来いよ」

久俊さんは、ちいさな子供にするように
ハンカチを出して私の顔を拭いた。



そして、
久俊さんが、私の手をつかみ、
次の停車した駅で降りるよ、と合図した。



「私、アパートに帰るつもりなので…」
久俊さんは、私がこの路線を
使って通勤しているのは、知っている。


私の降りる駅は、もう少し先だ。


「いいから、来い」


腕をつかまれたまま、電車を降りた。
いつもの駅よりひとつ手前で下ろされた。


「お腹空いてるか?」


「はい」


「何か好きなもん、買えよ」
スーパーマーケットで、腕を離される。


「うち、何もないから…」


「うち?あの…」
わけがわからない。

「ホームにいるとき、願かけてたんだ。
もし、君がこの場にいたら…」



「偶然です」


「いや、運命だよ」