「ビールでいい?」


「うん」

朱音は、冷蔵庫から冷えた缶ビールを
二つ持ってきた。

私は、朱音にお礼を言って、缶を受け取った。


化粧を落としてるし、格好だって
リラックスするための部屋着なのに、
朱音は、どうしてこんなに格好いいんだろう。


朱音が遠慮なく、聞きたいことを聞く。
こういうことには、無駄がない。

「ナオがどうかしたの?」


「たいしたこと無いの。
ちょっと、いつもと違うって思っただけで」


朱音の前では、たとえナオと
最後までいくようなことがあっても、
それがどうかしたのと、
涼しい顔で言うことだ。


「じゃあ、なんとも無いじゃん」


「でも、送って行くって、
言われるのは困るな。
断るのに一苦労だったし」


「送ってくのなんて、普通だし。
相手がしてくれるって言うなら、
そうしてもらえばいいじゃない。
そんなのどうして断るのよ」


「変だよ。だって私、
送るよなんて、
一度も言われたことないもん。

そりゃ、朱音ならナオも送るって
いうのは分かるけど、

私まで…どうしよう、
なんでそんなことしたがるのか、
分からない」


朱音は静かに笑いながら言う。


「だいたい、春ちゃんは、
ほとんどの男より、
お酒が強いんだから、
送りたくても送れないんじゃないの?

それに、送ってもらうの、そんなに嫌なの?
気にしないで送ってもらえばいいのに」


「そんなに、嫌ってわけじゃないけど。
送られないことに慣れてるから、
何かあったのかなって、考えてしまう。
それに…」


「それに…何?」


「その…送ってもらったら、相手を
そのまま帰してしまっても、
いいのかなあって…」


朱音は、とうとうこらえきれなくなって、
笑い出した。



「全部、部屋にあげるわけないでしょ。
どうするかは、自分で決めるのよ。

でも、なんかあったな?
嘘…
もしかして…
あいつ、
なんかやらかしたんでしょう?」


私は、ため息をついた。


私の恋愛スキルは友人である、
朱音にもナオにも遠く及ばない。

きっと、
隠し事をしてもすぐに見破られる。

これが仕事上の駆け引きのように、
お互いの利害関係だけで動けばいいのに。


なんでうまくいかないのが、
全然分からない。