ナオがシャワーを浴びて、
リビングのほうへ行ったと思ったら、
すぐに呼ばれた。


「春、ちょっと来て」

不用意に、不動産の資料を
出しっぱなしにしていた。


ナオはそれを手にして、
難しい顔をしている。


「これ、春が調べてるの?」


「ええ」


「引っ越すの?」


「いいえ」


「じゃ、誰が引っ越すの?」


「あの…資料送るだけって」


「さっき、誰と電話してたの?
もういい、言わなくて。
わかってるから。

そんなやつ1人しかいないだろう?
ふざけんな!!」


テーブルのものが、床に散らばった。


ナオの怒りが私に向かい、
私は突き飛ばされて、
ソファの上に押し付けられた。


「ナオ?」


「これ、あの男に頼まれたんだろ?」


「ええ。ごめんなさい…」

ナオは私の上に乗って、
すごい力で両肘を押さえている。


「あんた、何してんの。わかってんの?
こんな誘いに乗って」


「誘い?」


「こんなの、今時、
どこに居たってネットで調べられるし、
不動産屋に依頼すれば、
いくらでも探してくれるだろう?」


「はい…」


「わかってんの?こんなの、
部屋に呼び込むための、あいつの口実だって」


「そんなことのために?」


「俺だってそうする。
君が他のやつと一緒にいたら、
呼び出すためなら何だってする。
部屋に連れ込んだら…
こうして無理にでも関係を作る」


「ナオ、久俊さんはそんなこと…」


「うるさい、黙れ!!」