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十年たった今でも、
あの日のことは夢に見る。

ナオの胸に飛び込んで、
素直に好きだと言う、
気持ちをぶつけた時の事を。


ナオは、困ったような顔で、
キスも返してくれなかった。


ナオは、私の事を拒みはしなかったけど、
私を受け入れようとしなかった。
そして、
壁のように、侵入を防ぎ、
同情的な表情をした。


ナオが悪い訳じゃない。
ナオは私のことを、
親身になって考えてくれた。


そんなにしてくれたことが、
愛情からだと期待してしまった。


たかが、大学の同級生でしかない
私のために、親戚との金銭トラブルに、
間に入ってもらい、
お金を都合してくれた。



私のために、
これほどのことをしてくれた人は
祖父と高城君の二人だった。


私は、今でも、この二人に感謝をして、
自分の心は、ほとんどナオで
占められている。


あの時、一緒に湖を回って、
ホテルに着いたら、
自分の気持ちを押さえられなくなっていた。


初めて人を好きになったと自覚した日。
すぐに振られたから、
振られた日とおんなじた。


私は、すぐに振られてしまったから、
恋してると言う状態を、
少しも楽しむことが出来なかった。



どうして、すぐに言っちゃったのかな。


一週間あれば、
その間は幸せでいられたのに。


でも、それがあるから、
ナオとは、距離を保とうと言う気持ちが働く。


いつ、また距離を置こうと
言われてもいいように。