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大学に入って、1年が過ぎた。

普通の学生だったら、
当たり前のことだけれど、
卒業できるかどうかわからない私には、
1年、無事に過ごせたことが、
大変な重さを持っていた。


新学期が始まってからも、私の生活は、
高城の家の仕事を中心に回っていた。


雪乃ちゃんの志望校が、
都内のトップ校に変更になり、
雪乃ちゃんは、
人が変わったように、
前向きに取り組むようになった。


高城君の数学は、相変わらずだけど、
ちゃんと単位が
取れてほっとしたところだった。


二年生になり、
大学の履修届けも済ませた頃、
突然、高城君がアパートにやって来た。


「春?今からすぐに荷物をまとめて」
珍しく、慌てている。


「今からって、どうして?」


「事情は、車の中で説明するから。
とりあえず2、3日分の着替えまとめて」


私は、夕食を自分で作り
食べ始めたところだった。


「高城君は?食事済ませた」

「ああ…もう、それより車、路駐してるから、
早くしてくれる?」

私は、急いで食べ終えると、
流しに汚れた食器を洗いに行った。


「それ、俺がやるから、荷物まとめて」


「高城君、どこに行こうとしてるの?」


「そうだ、これ」
ナオは、私に携帯電話を渡した。