奇聞録四巡目




何日経っただろう・・・。


トイレに逃げ込んだのは確か三日前だったはず・・・。


痴漢だと思って慌てて逃げ込んだのに・・・。


何故かずーっとノックされ続けている。


気が変になりそうだ。



―赤い傘いりませんか―


まただ、ノックしながら決まってこれを言う。


都市伝説の怪談にお決まりのパターンじゃないか。


で、ノックが止んで、上を見上げると覗かれて、赤い傘で何かされるとか、もう、お決まりのパターンだ。


絶対上は見ない!


傘の問にも答えない。



それで3日、この公衆トイレに閉じ込められたままだ・・・。


電話も通じない。


声を出せない・・・。


食べ物はとっくに無くなったけど、幸いトイレだ。


水はなんとかなるだろう・・・。
まだ、飲んでいないけど・・・。



と言うか、3日経つのに誰もこのトイレを利用しないのか?


なんて事だ。



ああ、喉が渇いた・・・。

タンクの水を飲もう。




あれ、なんか詰まっている・・・。


よいしょ、よいしょ・・・。



うわっ・・・。



水が腐っている。


それで、ぐちゃぐちゃの塊が奥にねじ込まれている・・・。


え、なにこれ・・・。



骨!?



人の骨なの!?



で、このぐちゃぐちゃは・・・。



お、おえぇ〜っ・・・。



「すいません!赤い傘ください!!もう、何でもいいからここから出して下さい!!」




―赤い傘・・・。売り切れました・・・。―



えっ!ちょ、ちょっと何なの、ふざけんなよ!早くここから出せよ!!いい加減にしろよ!!うわぁあああ!いやあぁ〜!!




後日、市役所の職員が、使われていない公園の公衆トイレの撤去に訪れた時。


貯水タンクの中から、女性の損傷が激しい遺体を発見した。



遺体は一人だけ。


分解されたそれは、分解中に分解する側が汚れないように、ビニールの傘を使用しはねるのを避けた。
便器の隣にノコギリと一緒に傘も置いてあった。



傘に付着した体液や血液は、真っ赤と言うよりは、錆び色が付着していた。



以降、慰霊碑が跡地に建てられた。