「ほらあのビルのひび割れ、おかあさんて見えるだろう?」
友人が僕に言う。
「あそこの電柱の花。この前ここで事故があったんだよ。」
友人が僕に言う。
「オフィスビルの入り口に染みがあるだろう?飛び降り自殺したあとだってさ。」
友人が僕に言う。
「河川敷のこの祠さ、よく水死体が上がるから建てられたんだよ。」
友人が僕に言う。
「あそこの家、一家皆殺しになったんだって。」
友人が僕に言う。
「あそこの木で、よく首吊りあるらしいよ。」
友人が僕に言う。
「あそこの丘、戦争で亡くなった人を埋めている場所なんだって。」
僕は友人に言う。
「で、何が言いたいの?」
友人が僕に言う。
「忘れないであげなきゃと、思うんだよ。」
友人は陽炎に溶けるように消えていった。
僕は下校の時、「また明日ね。」と、言った友人の顔を、はっきりと思い出した。



