「りん、これを」

佐吉は懐に隠していた玉かんざしを取りだし、りんの手に握らせた。

「佐吉さま、こんなに高そうなもの…」

りんは恐縮して目を伏せてしまった。
佐吉はそんな彼女を愛しそうに見つめ、ふわりと笑った。

「君に、りんに、つけてほしいんだ」

佐吉はそう言って、りんの髪にかんざしをさした。
じっと見つめられ、りんは堪らず赤面した。

「うん、やっぱり似合うな」
佐吉は満足そうに微笑んだ。
彼につられて、りんも照れくさそうに微笑んだ。

その日から、りんの髪にそのかんざしがつけられていない日はなかったという。



「佐吉さまと、ずっと共に…」

「りんと、ずっと共に…」

二人の想いは同じだった。
ずっと共に居られると、信じて疑わなかった。
もちろん、難しい恋だとは思っていた。
ただ、愛があれば出来ないことはないと思っていただけで。
幼い二人は、真の現実の厳しさを知らなかったのだ。