己の気持ちを自覚した二人が恋仲になるのは、それからすぐのことだった。

この時はまだ、二人とも自分達の恋の前に立ちふさがる身分の壁に気付いていなかった。



その日も蓮池には楽しそうに舞うりんと、彼女を描く佐吉の姿があった。
特別なことをしなくても、それだけで二人は幸せだった。
一緒にいるだけで、世界が輝いて見えた。
本当に、それだけで良かったのだ。

佐吉は、タイミングをはかっていた。
実は、りんのために玉かんざしを買っていたのだ。
彼女にふさわしいものを選ぼうと一時間ほど悩んだ末に、やっと蓮の花があしらわれたものに決めたのだ。

 
「佐吉さま…?」

ふと気付けば、りんが心配そうに覗き込んでいた。
ぼーっとしていたようだ。

「あ、ああ。大丈夫だ」