淡々と物事を進めてしまったけど

あれで良かっただろうか

上手く全部血を拭きとれただろうか





誰か他のアパート住人が

警察に通報していないだろうか

警察が隣の扉を開けてしまえば

バレるのは時間の問題だ





彼は先ほどから黙ったままだ

眼鏡を取った素顔だ

だけど

宝石のように美しい瞳は

死んでいるように見えた




あたしは何も言わないで

再びお茶を淹れた

彼は受け取る際何も言わなかったけど

静かにお茶を啜(すす)っていた





『ピーッ』




場違いな

お風呂の湧いた音






「どうぞ」




それだけ言うと

彼はゆっくり立ちあがって

お風呂場へ向かって行った








「ありがとう」






ずっと敬語口調だった彼が

静かにそう

言った