「無事に帰れそうでよかった。クウ、もうここにきては駄目よ。こわい大人はあなたたちを殺そうとしているのだから」
 クウはシャロンに自分の名前を呼ばれたことに気づきました。
 名前を教えてはいないので、シャロンはクウの鳴き声を聞いて、名前をつけたのでしょう。

 どうやら人間には優竜の言葉が通じないようです。
 そしてクウもシャロンの話に首を傾げました。
 クウもシャロンに言われていることは何となくわかるのですが、全てはわからないのです。
 優竜同士、人間同士は言葉が通じますが、優竜と人間とでは言葉は通じないようでした。

「さあ、家へ帰っていいのよ。このことは黙っておくから安心して。そして、あなたたちの島へは誰も行かせないわ。一国の王である父の一人娘として」
 シャロンが身につけている白い布が光を浴びてキラキラと輝きます。
 シャロンのほうからする花のいい香りに誘われて、クウは首を伸ばしました。
 すると、シャロンがクウの鼻先に触れました。
 温かくて柔らかいシャロンの手。
 クウは舌を出してシャロンの手をなめました。

 優竜が相手をなめることは「お友だちになりましょう」という意味があるのです。
「あはっ、くすぐったい。それじゃあクウ、お別れよ。元気でね」
 シャロンはそう笑いながら、クウの鼻先に抱きつきました。
 その途端、クウは冷たいものが鼻先に落ちたのを感じました。
 見ると不思議なことに、シャロンの両目から水が流れていました。