お父さんは慌ててハンドルを切り、トラックはガードレールをぶち破って落下してしまった。


相手の運転手はお父さんと同じ長距離運転手で、パーキングで休んでから運転を再開したものの、


夜で視界が悪く半分寝ぼけていたこともあり、逆走してしまったのだそうだ。


お父さんはそのまま帰らぬ人となった。


それは、あたしが生まれる1週間前のことだった。


お父さんがいなくて可愛そうね。


そう思われることには慣れていたが、可愛そうという言葉にはピンとこなかった。


元々持っていないものを可愛そうだと言われても、あたしにとってはなくて当然で生きて来た。


父親がいる世界というのを知らないから、父親がいない世界が可愛そうだという認識がなかった。