札束を重ねながら金さんは説明する。


「まずこの録音機には大海銀行の弱味がある。恐らく不破清治は会社の上司から指示されている。そして、この不破は大海銀行で一番優秀な若手だ。こいつの代わりはそういないだろう。」


金さんは煙草を灰皿に置く。

「つまり不破がミスをしたところで簡単に切るわけにはいかないんだよ。不破以外にこれからの大海銀行を引っ張って行ける人材がいないから。」

話を聞く限り、無知の零にも何となく分かってきた。

「つまり、大海銀行は不破のミスが露見したら庇うしかない。そこで大海銀行から不祥事を表沙汰しない代わりに大金を貰うというわけですね。」


零の考えを聞いた金さんは再び煙草を吸う。

「良く分かっているじゃないか。でも、それじゃあまだ300万の価値しかないな。残りの700万は大海銀行との人脈作りだ。」


金さんは日が沈みゆく外を眺めながら煙草を灰皿の上で潰す。


「フィクサーとは7割の人脈に2割の財力、1割の話術よ。人脈が全て。人脈さえ有れば大物政治家との話を通しやすくなるし、新たな境地への開拓も出来る。もちろん財力も話術も必要だが、それを活かす人脈が俺の生きる世界では重要だ。」



零は金さんの言葉に凄みを感じていた。

別に金さんは凄みを出そうとして言っているわけでは無い。


金さんの言う言葉に説得力を感じたのだ。


裏の世界で生きている人間だから出せる言葉の重み。

普通の人間が言うのとは言葉の重みがまるで違う。


この時の零は金さんが重ねている札束なんかより金さんに魅了されていた。