洋一は、聞く気のある人なのだと美海の言葉で思い出す。だからこそ、こんなにも優しく、温かく待ってくれる。

「洋一の隣に自分はいてもいいのかなって、それが…とにかく不安なんだよ。絶対自分じゃつり合わない。だから…。」

 言葉が言い終わらないうちに、身体をそっと抱きしめられた。洋一の香りだ。この香りに包まれると、涙が出そうになる。

「ずっと傍にいるよ、明季が俺をいらねーって言うまで。俺から明季を手放すことは有り得ない。だってお前さ、今どれだけ可愛い顔してるかしらねーだろ。有り得ないからほんと。意味不明だからその顔。そんな顔のお前を押し倒さない俺、ほんとに神様だからな、感謝しろよ…不安がってないで。」
「…感謝はしてるし。…感謝してるから…不安なんだって。全然自信がもてないの。自分が好かれるはずないって知ってるから。」
「…じゃあ、それがお前の思い違いなんだよってわからせるから。だから傍にいてくんねーかなぁ。難しいことをごちゃごちゃ考えずに。」
「…私で、大丈夫なの?」

 そう明季が問うと、ゆっくりと洋一が腕の力を緩めた。涙が零れたその顔で洋一に向き合うことには勇気が要ったが、仕方がない。明季は洋一の目を見つめた。
 明季の右頬に洋一の左手が触れた。優しい温度に目を瞑ると涙が零れた。
 そっと頬に触れた洋一の唇。驚いて目を開けると、今度は唇に唇が触れた。

「…約束の一つ目、めっちゃ破ってるなー俺。でも許して。可愛すぎるお前も結構ずるいから。」
「…な…何言って…ってか何…。」

 明季はそっと自分の唇に手を伸ばした。洋一の唇も熱かったが、その熱が自分にも伝染したかのように熱い。

「…明季で大丈夫なんじゃない。明季がいいって何度も言ってる。明季も俺がいいって思ってくれてんなら、約束する。3回目の約束。」
「…約束?」
「ずっと傍にいる。」

 嘘みたいな、本物の響きだった。
 そんなこと、約束してもらっていいのだろうか。己の汚さに幻滅しないでいてくれるのだろうか。本当は寂しくて、怖くて仕方がない日があるなんて言って、甘えてしまってもいいのだろうか。強がったり、不安を隠したりしなくていいのだろうか。
 信じて、みてもいいのだろうか。

「嘘。」
「…最初の約束こそ破ってるけど、2こ目は破ってねーぞ、今までずっと。」
「…だって、嘘みたいなんだもん…洋一がずっと傍にいてくれるとか…嘘みたい…だし。」

 涙が零れ落ちる。こんなに感情をむき出しにして泣くなんて子供みたいだ。