『告白』

 街角を歩く女性に視線をしぼった男は、駆け足で彼女に近づくと、深く頭をさげてから口を開いた。
「一目見た時から好きでした! お願いします。僕と付き合ってください!」
 告白された女性は一瞬、驚いた表情を見せたが、すぐに白い歯を見せて笑った。
「えっ、嘘! こんな私でもいいの……?」
 女性の問いかけに、男は迷わず首を縦に振ると、用意していた一枚の紙を差し出した。
 明日、午後七時に隣の駅前で落ち合い、食事に行きましょうと書いたものだ。
 食事に行く場所は夜景が奇麗に見え、『カップルに最適、雰囲気も良くなり、最高の夜を迎えること間違いなし』と雑誌でも紹介されるほどの、展望レストランであった。
 その日、言葉少なく女性と別れた男は、自宅に戻ると興奮状態のまま寝た。
 翌日の夜にはスーツにネクタイ姿――鏡の中の自分は、知的な男性にしか見えない。
 予定通り、七時十分前には、待ち合わせの場所に到着した。
 ところが、約束の時間になっても女性は現れない。聞いた携帯電話の番号にかけても、マナーモードのままで彼女は出ない。
 ――まだ電車に乗っているのか? もしかしたら、嫌われたのかもしれない。
 男はそう思いながらも、今度は彼女の自宅に電話をかけた。
 すると、意外にも電話のコール数回で、「はい」という女性の返事があがった。彼女の声だった。
「……なんだ。自宅にいたのか。もしかして約束忘れてた?」
 男の問いかけに、彼女は受話器の向こうで「え?」と声をあげた。
「約束? 何のこと?」
「とぼけないでくれよ……昨日、君に告白したろう。君はオーケーしてくれて。今日、食事をする約束だったじゃないか」
 男の言葉を聞いた彼女は、唸るような声を出しながら聞き返した。
「告白されてオーケーしたのって……もしかして私の双子じゃあ」
 男は「えっ」と声をあげた。彼女が双子とは知らなかったのだ。そう、双子だから声が似ているのは当たり前である。気まずい雰囲気になったと、男は感じて慌てて弁解した。
「ごめん、双子とは知らなかったんだ。ということは、僕が告白したのは君のお姉さんか、妹さんか……一目惚れだったから、詳しいことも訊かないでいたよ」
 そんな男の弁解に、受話器の向こうの女性も気まずそうに告げた。
「違うわ。私たち、二卵性双生児なの。あなたが告白したのって、多分……弟よ」