『理由』

 ――とある陸地から数十キロ離れた海上に、鳥の楽園と呼ばれる無人島がありました。
 島の住民は、ペンギンとカモメだけで、彼らの天敵は一切いません。
 しかし、平和な環境のために、住民は増え続け、島は過密状態になっていました。
 ある日――環境に耐えられなくなったカモメたちは、島を出ることにしました。皆が次々と飛び立って新天地を目指します。
 飛び立つ仲間たちを見送り、最後の一匹になったカモメは、ペンギンの前に舞い降りると、前々から思っていたことを、彼に質問しました。
「なあ、ペンギンくん。君は空を飛んで、島を離れる気はないのかい?」
 ペンギンは、首をあげると答えました。
「ないよ。だってここには猛獣がいないし、魚だっていっぱい捕れるだろう」
 カモメは、更に質問しました。
「じゃあ、猛獣が出てきて、魚が取れなくなったらどうするんだい?」
 ペンギンは「そうだねぇ」と答えると続けました。
「島の真ん中に湖があるから、引越しするよ。そこにも魚はいるし、水に浮いていれば、猛獣だって襲ってこないしね」
 カモメは、更に更に質問をしました。
「じゃあじゃあ、島全体が火事になったらどうするんだい?」
 ペンギンは「それは困ったねぇ」としばらく悩むと、「そうだ」と羽をばたつかせました。
「土の中に潜って火事をやり過ごすよ。木が全部燃えたら、住む場所も増えるしね……」
 カモメは、ペンギンの強情さに呆れると、大きな息を吐いて彼を見ました。
「……せっかく立派な羽根があるのに、君は何があっても飛ぼうとは思わないんだね」
 ペンギンは真剣な表情に変わると、カモメの最後の質問に、こう答えました。
「だって仕方ないだろう。僕たち、一族全員……高所恐怖症なんだ」