ヤバい、間に合わないかもしれない。


こんなに本気で走るの高校生以来かもしれない。


走って建物の間の角を曲がると、体に衝撃が走った。


一瞬後ろによろめいたけど、なんとか体制を立て直す。


衝撃が走った時、 「きゃっ」という声がしたことから誰かにぶつかったんだと分かった。


しかも女性。


「大丈夫ですか!?」


すぐに地面に尻餅をついていた女性に手を伸ばす。


「あ、はい。
ありがとうございます…」

伸ばした手に重ねたところで彼女の腕を自分側に引いて立たせる。


「あの、すいませんでした。
急いでて前方不注意でした…」

立ち上がった彼女にぺこりと小さく頭を下げる。


すると彼女の方も


「わ、私こそすいません!」


頭を下げて謝ってきた。


「いえ、俺が悪いんで!」


「いえ、私が!」


なんてやりとりを何回か繰り返した時だった。


彼女が突然笑いだしたのだ。


何事!?


と思っていると、彼女は


「すいません、何だか可笑しくなって」


口元に手を添えながら笑っていた。


「そ、そですね。
ハハハ」


同じことを二人して言い合っていたのだ、可笑しくも思うだろう。


「あの、本当にすいませんでした。
それじゃあ私はこれで」


彼女は笑顔で軽く頭を下げて行ってしまった。


彼女が去った後をポーとしながら見ていた後、俺はふと白い何かが落ちているのに気づいた。


近づいて手にとってみる。


「ハンカチ…」


汚れが一切ないし、キレイだ。


もしかしてさっきの彼女が?


ジッと見つめた後、カバンの中に入れた。


このくらいの時間に明日また彼女に会えるかもしれない。


そんな淡い期待をして。