「去年。家に帰ったんだよ。親父に内緒で。兄貴に電話してさ。忘れもんとりに。その時、家の中がさ……」
少し、言葉が途切れ、息を飲む。
いつの間にか。真剣に慶太郎の話にのめり込んでいた。
「空気がさ。もう違うんだよ。ガキの頃流れてた穏やかなやつ。壁やドアも、元通り。俺の部屋は衣装部屋に変わってた」
その時。
ああ、捨てられたんだ、って。
足が動かなかった、と。
呆然とする慶太郎の耳に、次に届いたのは。
「母さんが、“ただいまー”って。呑気な声だったよ」
焦る必要なんてない、本来なら自分の居場所だった部屋で。冷や汗をかいた、と言う。
段々近付いてくる足音。
そして。慶太郎の部屋の扉が開いてるからか。真っ直ぐこっちに向かってくる。

