私が黙り混む事数秒。


お父さんが、再び口を開く。


『お母さんが、な。少し調子がいいんだよ』

「……」

『だから、ほら。な?久しぶりに会いたいし……麻衣が都合がいい日でいいんだよ?』

「……」

『家族揃って食事に行くのは、どこの家庭でもやってるんだから。別に重く考えなくていい』



そう。

でもそれは普通であって、私には普通じゃない。


「お父さ、」

『絶対お母さんも喜ぶだろうから、な?』


唇を。噛んでいた。

痛みすら分からず、口に広がる鉄の味で我に返る。


履いているスニーカーに視線を落とし、自分を纏う生温い空気。
夏独特の、湿度も。

私の周りだけが冷えきっている様にも思えた。