「ええ、落ち着いたら一度話を……と思っていたんですけど、恥ずかしながら僕が立ち直れなくて」


「良いのよ、無理しないで。当然よね、兄弟も同然だったんでしょ?南部君とあなた」


声が聞こえる……どうしてだろう。


その名前を聞くと、胸が痛い。


「そうですね、今でも時々辛くなりますけど……悲しい事故だったんです。まさか歩道から足を踏み外すなんて」


「菜々の勉強を見てもらってたのに、こんな事になるなんて。申し訳ないわ。本当にごめんなさい」


お母さんと……誰の声だろう。


窓の外を見ている私の耳に、聞き覚えのある声。


「いえ……こちらこそ申し訳ありません。菜々が……あんな事になってしまって」


「仕方ない事よ。目の前で同級生があんな姿になってしまったんだもの。あなたと菜々が生きていた事だけでも良かったと思わないと」


ガチャッと、ドアが開く音が聞こえた。


「入るわよ。今日はね、お勉強を教えてくださってた向井さんが来てくれたのよ。じゃあ向井さん、お帰りの時は一声かけてくださいね。リビングにいますので」


「ありがとうございます。……菜々、一週間ぶりだね」


誰かが、私の隣にやって来た。


この人は私を知ってるようだけど……私は覚えていない。