王族の居住区から、迷路のように続く廊下を渡り、最短距離でボルタージュ騎士専用の部屋が並ぶ塔まで無言。
誰とも目を合わせず、早足に自室に戻る。
途中挨拶をしてきた見習い騎士や黄色い声を放つ令嬢達、誰の声も今のアレンには聞こえていなかった。
いきよいよく自室のドアを開け、そして閉める。
早鐘のように打ち続ける心臓は甘さを含んだ苦しみに支配されており、このまま心臓が止まっても悔いは無い。そう思わすほどの幸せをアレンに運んでいた。
「エル様の肌は柔らかくて……滑からだった……胸も…堪らなく…気持ちよかった……満面の笑みで走ってくる姿は最高だ…」
アレンは先ほどのエルティーナとの短い逢瀬を繰り返し繰り返し、思い出していた。
今は幸せに浸りたくて、本当はこの後レオンに会いに行かなくてはならないが行く気がおきない。
「明日にするか………レオンに話したら、面倒になるのは目に見えている……。エル様の護衛に戻してもらうよう、頼まないといけないしな……」
レオンへの報告を若干面倒に思いながら、軍服を脱ぎシャツ一枚になる。かるく胸元の開いているシャツからはヘアージュエリーが見えている。アレンはひと月前から肌身離さずに付けていた。
「エル…様……」
声に出し姿を思い浮かべ、沸き立つ身体を心地よく感じていたら………ドアがノックされる。
不思議に思い扉を開けると、そこには久しぶりに見る弟キャット・メルタージュの姿があった。
「キャット? どうした? こんな遅くに、まだ王宮にいたのか?」
「兄上に会いに来たんです。今日は飲もうかと思って」
キャットは最高級のワインを目の高さまで持っていき、笑って見せた。
「気を使わせているな。皆が思うほど気にしてないんだが……まぁいい、せっかくだから頂こう」
キャットはアレンの憑き物が落ちたような雰囲気に反抗心が湧く。
「本当に…兄上は…嬉しそうですね…僕には……」
ドアの前に立ち尽くして、床を睨みつけているキャットにアレンはグラスを出しながら微笑む。
「キャット、私の病は着実に進行している。今でもかなりの量の吐血がある。歳を重ねるごとに吐く血の量も増えているんだ」
いきなりの衝撃告白に目を剥くキャットに、気づかないふりをしながらワインを注ぐ。ソファーがない為、ベッドに腰掛けキャットに隣に座るように促す。
「……兄上…、黙って…いたんですか…」
「治ったとは言ってない。だから家督も初めからお前に譲ると話していただろう。どう見積もってもそう長くはない。未来のない私がエル様を妻にとは言えない。
でも私は聖人君子ではないからな、短い生の間、エル様を独り占めしたいと思った。
舞踏会や晩餐会で私が常にエル様の側にいる事で、妬みや嫉妬から彼女を一人にさせているのも分かっていたし、恋人はおろか友人さえも出来ないのは私の所為だろう。
知っていて知らないフリを続けている……私の心臓が止まるまでは、エル様の一番は私であったらいいと…思っているからな」
兄のゆがんだ告白に、只々呆然とするキャット。
「……キャット。ワインを零すなよ」
持っていたワイングラスがかなり傾いていて驚く「すいません、大丈夫です」とキャットは答える。
「だから、お前たちが思うほど悲壮感漂う感じで宦官になったわけじゃない。とくに性行為が好きな訳ではないし。
私にとって、あってもなくてもどちらでも構わない程度なんだ。生々しい男の部分が無い分、エル様と抱き合っても許される気がするし私には有難い制度だ」
「普通は宦官なんて………。兄上の考えが極端過ぎて…恐いです」
「極端か…。そうだな、私は狂ってるよ。例えば……エル様がこの国が嫌い、みんな殺して。と言ったら私は迷うことなく全員を屍にするだろう」
アレンの言葉に冷や汗が流れる。エルティーナがそんな台詞を言う訳がないと確信出来るからいいが、アレンはそれが出来るだけの地位も腕もある。
恐ろしい言葉を紡ぐアレンに返す言葉がなく、キャットは凍りついている。そんなキャットにアレンは優しく微笑む。
「冗談だ……そう恐がるな。エル様に危害を加えなければ何もしない」
「………兄上、エルティーナ様に危害を加えたら殺す……って聞こえますよ………」
「あぁ、それは冗談ではなく本気だ」
キャットの血の気が完全に引いた所で、またノックの音が室内に響く。
「今日は、来客が多いな……」
ワインをテーブルに置いてドアを開ける為に立ち上がる。
ドアの前に立っていたのは、今日会うはずだったレオンだった。
「レオン、なんだ? こんな所まで」
「ふっ…………。なんだ。だと!? 今日、報告に来ると聞いていたから朝から、いまか、いまか。と思って待っていたら、来ないだと!? ふざけているのか!!!」
「今日報告に行くとは、私は言ってない。団長には、今日か明日かどちらかに行くと話したんだ」
「………何故、お前はそう冷たいんだ」
「レオン殿下、兄上もその……色々あるのだと思いますので……そうですよね? 兄上」
「キャット!? 何でここにいる!?」
キャットがいる事に驚くレオンを丸無視して、内容を話す。
「丁度いい。話したい事があったんだ、レオンも一緒に飲まないか? それとも、 明日また時間をとった方がいいか?」
ドアの縁に軽く肩を預け腕を組んで問いかける姿は一幅の絵画のようで、ここで見惚れたら負け。と思いアレンから視線をそらし「今、聞く」とだけ返事をし部屋の中に入った。
物置きになっていた丸椅子を、ベッドと向かい合わせになるように置き、キャットが座る。アレンとレオンはベッドに腰掛けた。
年代モノのワインを堪能した後、世間話をしながら時間をしばし過ごす。軽い冗談を言いながら三人は笑い合う。
「キャットは細かいんだ、疲れる」
「殿下が間違えるから正しているだけです。僕が悪いように言わないでください」
「どっちもどっちもだ。レオンは大雑把でキャットは細かすぎる」
「アレンはエル以外には本当に、冷たいな……」
三人の会話の中で今初めて、エルティーナの名前が出た。キャットはあえて、エルティーナの名前をこの場で出さなかった。
レオンがアレンの事情を知ったら、逆上することが手に取るように分かるからだ。
(「あぁぁぁっ!! 武闘派じゃない僕は、二人を止めれない。兄上、穏便に、お願いですから、穏便に!!!」)
キャットの懇願の視線をバシバシ感じながら、アレンは話し出す……レオンをどうやってなだめようか考えながら。
「レオン。エルティーナ様の護衛の件なんだが…」
「あぁ!! それ、アレンに頼みたかったんだ。エルの護衛も無事終わった後すぐで申し訳ないが、今度はクルトの護衛を頼みたい。俺と違って騎士向きではなさそうだから、騎士団には入らないだろう。だから護衛はもちろんだが、同時に剣の扱い方も教えてやって欲しい」
真面目に話すレオンに、アレンは最後まで静かに聞いていた。
「レオン。クルト様の護衛は断らせてもらう。高くかってくれるのは嬉しが……私をエルティーナ様の護衛に戻して欲しい。
メルタージュの名を持っていては、降嫁するエルティーナ様の護衛につけないなら、私を家名から外してもらうよう、父にも話をしている」
「………は? ………いや、……待て、エルに護衛は必要ない。王女ではなくなるし、政治とは関わらなくなるから護衛はいらないだろう。
そもそも、あの狸のフリゲルン伯爵でもお前が一緒だと嫌がるぞ、きっと。それに今だって色々言われているんだ、………情夫…と言われかねないぞ」
「それは大丈夫だ。初夜を迎えたらエルティーナ様が処女だと分かるだろうし。私はもう男ではないから、間違いは起こらない。フリゲルン伯爵も甘受してくれるだろう」
部屋の中が凍りつくのが肌で感じられる。
「…………何を…言って…る……」
呆然とこちらを見つめるレオンに瞳をしっかりと合わせ、もう一度口にのせる。
「私は宦官になった。未来永劫、エルティーナ様と間違いは起こらない」
レオンは何も言わず立ち上がり、アレンの正面に身体を向け逃げないように右肩を左手で掴む。もちろんアレンは逃げるつもりはない。
了承をとることなく、右手をアレンの股間にあてる。
男性としてあるべきものは、そこにはもう無かった。
「………やめてくれ……冗談だろ……」
レオンは、アレンの胸倉を掴み悲痛な声を上げる。
いつからか、どこからか、全く分からなかった。ただ最近、エルティーナの婚約が決まった時から歯車がくるってきているとは感じていた。
「いつからだ!! いつからエルの事を女として見ていた!! 何故、そう言わない!!
愛しているなら、何故手を出さない!? お前がここまでする必要があるのか!!?」
「………初めてお会いした時から…。十一年前に出会った時から、私はエルティーナ様を女性として愛している。
騎士になったのも、お前に近づいたのも、全部エルティーナ様にもう一度 出会う為だ」
「…嘘…だろ…………」
「レオン。私をエルティーナ様の護衛に戻してくれ。いつ止まってもおかしくないくらい、心臓の病は進んでいる。死ぬ直前まで彼女の側にいたい。それ以上は望んでない」
静かにレオンを見据える。
合っていた視線は外され、レオンの左腕が右肩に置かれ軽く首に回される。右手はまた股間に置かれ、何度も確認される。
「………どうせなら、……とる前に…エルを抱けば良かったんだ。そうなっても、誰も文句は言わなかっただろうに……」
「そして、エル様に嫌われろと? 私は一時の快楽より永遠を望む。命が終わるその時まで、エル様の側に…いたい…」
レオンは腰を軽く曲げ、アレンを抱きしめる。
「馬鹿だな……お前は……」
「レオンに抱きつかれても嬉しくない。どうせなら、エル様の柔らかい身体を抱きしめたい」
「変態」
「今更だ」
軽い冗談を言い合っている二人を見て、キャットはほっとする。殴りあいになったら、退散しようと思っていたくらいだからだ。
(「しかし、流石…………レオン殿下。……兄上とは友人だからか? …同じ騎士だからか?レオン殿下も兄上同様、神がかった美貌だから気にならないのか??
……よく……この状況下で兄上の股間を触れるものです。何度も……。弟の私でも、無理ですよ……流石に……」)
新しい酒を増やし、三人で飲み直す。皆が久しぶりと感じていても、この三人で呑むのは初めてだった。
キャットは、懐かしさを胸に微笑む。
レオンは常に冗談を言いながら笑い。
アレンはこれから先、エルティーナの側にいる確約をもらい、触れ合えるだろう未来に思いを馳せる。
誰とも目を合わせず、早足に自室に戻る。
途中挨拶をしてきた見習い騎士や黄色い声を放つ令嬢達、誰の声も今のアレンには聞こえていなかった。
いきよいよく自室のドアを開け、そして閉める。
早鐘のように打ち続ける心臓は甘さを含んだ苦しみに支配されており、このまま心臓が止まっても悔いは無い。そう思わすほどの幸せをアレンに運んでいた。
「エル様の肌は柔らかくて……滑からだった……胸も…堪らなく…気持ちよかった……満面の笑みで走ってくる姿は最高だ…」
アレンは先ほどのエルティーナとの短い逢瀬を繰り返し繰り返し、思い出していた。
今は幸せに浸りたくて、本当はこの後レオンに会いに行かなくてはならないが行く気がおきない。
「明日にするか………レオンに話したら、面倒になるのは目に見えている……。エル様の護衛に戻してもらうよう、頼まないといけないしな……」
レオンへの報告を若干面倒に思いながら、軍服を脱ぎシャツ一枚になる。かるく胸元の開いているシャツからはヘアージュエリーが見えている。アレンはひと月前から肌身離さずに付けていた。
「エル…様……」
声に出し姿を思い浮かべ、沸き立つ身体を心地よく感じていたら………ドアがノックされる。
不思議に思い扉を開けると、そこには久しぶりに見る弟キャット・メルタージュの姿があった。
「キャット? どうした? こんな遅くに、まだ王宮にいたのか?」
「兄上に会いに来たんです。今日は飲もうかと思って」
キャットは最高級のワインを目の高さまで持っていき、笑って見せた。
「気を使わせているな。皆が思うほど気にしてないんだが……まぁいい、せっかくだから頂こう」
キャットはアレンの憑き物が落ちたような雰囲気に反抗心が湧く。
「本当に…兄上は…嬉しそうですね…僕には……」
ドアの前に立ち尽くして、床を睨みつけているキャットにアレンはグラスを出しながら微笑む。
「キャット、私の病は着実に進行している。今でもかなりの量の吐血がある。歳を重ねるごとに吐く血の量も増えているんだ」
いきなりの衝撃告白に目を剥くキャットに、気づかないふりをしながらワインを注ぐ。ソファーがない為、ベッドに腰掛けキャットに隣に座るように促す。
「……兄上…、黙って…いたんですか…」
「治ったとは言ってない。だから家督も初めからお前に譲ると話していただろう。どう見積もってもそう長くはない。未来のない私がエル様を妻にとは言えない。
でも私は聖人君子ではないからな、短い生の間、エル様を独り占めしたいと思った。
舞踏会や晩餐会で私が常にエル様の側にいる事で、妬みや嫉妬から彼女を一人にさせているのも分かっていたし、恋人はおろか友人さえも出来ないのは私の所為だろう。
知っていて知らないフリを続けている……私の心臓が止まるまでは、エル様の一番は私であったらいいと…思っているからな」
兄のゆがんだ告白に、只々呆然とするキャット。
「……キャット。ワインを零すなよ」
持っていたワイングラスがかなり傾いていて驚く「すいません、大丈夫です」とキャットは答える。
「だから、お前たちが思うほど悲壮感漂う感じで宦官になったわけじゃない。とくに性行為が好きな訳ではないし。
私にとって、あってもなくてもどちらでも構わない程度なんだ。生々しい男の部分が無い分、エル様と抱き合っても許される気がするし私には有難い制度だ」
「普通は宦官なんて………。兄上の考えが極端過ぎて…恐いです」
「極端か…。そうだな、私は狂ってるよ。例えば……エル様がこの国が嫌い、みんな殺して。と言ったら私は迷うことなく全員を屍にするだろう」
アレンの言葉に冷や汗が流れる。エルティーナがそんな台詞を言う訳がないと確信出来るからいいが、アレンはそれが出来るだけの地位も腕もある。
恐ろしい言葉を紡ぐアレンに返す言葉がなく、キャットは凍りついている。そんなキャットにアレンは優しく微笑む。
「冗談だ……そう恐がるな。エル様に危害を加えなければ何もしない」
「………兄上、エルティーナ様に危害を加えたら殺す……って聞こえますよ………」
「あぁ、それは冗談ではなく本気だ」
キャットの血の気が完全に引いた所で、またノックの音が室内に響く。
「今日は、来客が多いな……」
ワインをテーブルに置いてドアを開ける為に立ち上がる。
ドアの前に立っていたのは、今日会うはずだったレオンだった。
「レオン、なんだ? こんな所まで」
「ふっ…………。なんだ。だと!? 今日、報告に来ると聞いていたから朝から、いまか、いまか。と思って待っていたら、来ないだと!? ふざけているのか!!!」
「今日報告に行くとは、私は言ってない。団長には、今日か明日かどちらかに行くと話したんだ」
「………何故、お前はそう冷たいんだ」
「レオン殿下、兄上もその……色々あるのだと思いますので……そうですよね? 兄上」
「キャット!? 何でここにいる!?」
キャットがいる事に驚くレオンを丸無視して、内容を話す。
「丁度いい。話したい事があったんだ、レオンも一緒に飲まないか? それとも、 明日また時間をとった方がいいか?」
ドアの縁に軽く肩を預け腕を組んで問いかける姿は一幅の絵画のようで、ここで見惚れたら負け。と思いアレンから視線をそらし「今、聞く」とだけ返事をし部屋の中に入った。
物置きになっていた丸椅子を、ベッドと向かい合わせになるように置き、キャットが座る。アレンとレオンはベッドに腰掛けた。
年代モノのワインを堪能した後、世間話をしながら時間をしばし過ごす。軽い冗談を言いながら三人は笑い合う。
「キャットは細かいんだ、疲れる」
「殿下が間違えるから正しているだけです。僕が悪いように言わないでください」
「どっちもどっちもだ。レオンは大雑把でキャットは細かすぎる」
「アレンはエル以外には本当に、冷たいな……」
三人の会話の中で今初めて、エルティーナの名前が出た。キャットはあえて、エルティーナの名前をこの場で出さなかった。
レオンがアレンの事情を知ったら、逆上することが手に取るように分かるからだ。
(「あぁぁぁっ!! 武闘派じゃない僕は、二人を止めれない。兄上、穏便に、お願いですから、穏便に!!!」)
キャットの懇願の視線をバシバシ感じながら、アレンは話し出す……レオンをどうやってなだめようか考えながら。
「レオン。エルティーナ様の護衛の件なんだが…」
「あぁ!! それ、アレンに頼みたかったんだ。エルの護衛も無事終わった後すぐで申し訳ないが、今度はクルトの護衛を頼みたい。俺と違って騎士向きではなさそうだから、騎士団には入らないだろう。だから護衛はもちろんだが、同時に剣の扱い方も教えてやって欲しい」
真面目に話すレオンに、アレンは最後まで静かに聞いていた。
「レオン。クルト様の護衛は断らせてもらう。高くかってくれるのは嬉しが……私をエルティーナ様の護衛に戻して欲しい。
メルタージュの名を持っていては、降嫁するエルティーナ様の護衛につけないなら、私を家名から外してもらうよう、父にも話をしている」
「………は? ………いや、……待て、エルに護衛は必要ない。王女ではなくなるし、政治とは関わらなくなるから護衛はいらないだろう。
そもそも、あの狸のフリゲルン伯爵でもお前が一緒だと嫌がるぞ、きっと。それに今だって色々言われているんだ、………情夫…と言われかねないぞ」
「それは大丈夫だ。初夜を迎えたらエルティーナ様が処女だと分かるだろうし。私はもう男ではないから、間違いは起こらない。フリゲルン伯爵も甘受してくれるだろう」
部屋の中が凍りつくのが肌で感じられる。
「…………何を…言って…る……」
呆然とこちらを見つめるレオンに瞳をしっかりと合わせ、もう一度口にのせる。
「私は宦官になった。未来永劫、エルティーナ様と間違いは起こらない」
レオンは何も言わず立ち上がり、アレンの正面に身体を向け逃げないように右肩を左手で掴む。もちろんアレンは逃げるつもりはない。
了承をとることなく、右手をアレンの股間にあてる。
男性としてあるべきものは、そこにはもう無かった。
「………やめてくれ……冗談だろ……」
レオンは、アレンの胸倉を掴み悲痛な声を上げる。
いつからか、どこからか、全く分からなかった。ただ最近、エルティーナの婚約が決まった時から歯車がくるってきているとは感じていた。
「いつからだ!! いつからエルの事を女として見ていた!! 何故、そう言わない!!
愛しているなら、何故手を出さない!? お前がここまでする必要があるのか!!?」
「………初めてお会いした時から…。十一年前に出会った時から、私はエルティーナ様を女性として愛している。
騎士になったのも、お前に近づいたのも、全部エルティーナ様にもう一度 出会う為だ」
「…嘘…だろ…………」
「レオン。私をエルティーナ様の護衛に戻してくれ。いつ止まってもおかしくないくらい、心臓の病は進んでいる。死ぬ直前まで彼女の側にいたい。それ以上は望んでない」
静かにレオンを見据える。
合っていた視線は外され、レオンの左腕が右肩に置かれ軽く首に回される。右手はまた股間に置かれ、何度も確認される。
「………どうせなら、……とる前に…エルを抱けば良かったんだ。そうなっても、誰も文句は言わなかっただろうに……」
「そして、エル様に嫌われろと? 私は一時の快楽より永遠を望む。命が終わるその時まで、エル様の側に…いたい…」
レオンは腰を軽く曲げ、アレンを抱きしめる。
「馬鹿だな……お前は……」
「レオンに抱きつかれても嬉しくない。どうせなら、エル様の柔らかい身体を抱きしめたい」
「変態」
「今更だ」
軽い冗談を言い合っている二人を見て、キャットはほっとする。殴りあいになったら、退散しようと思っていたくらいだからだ。
(「しかし、流石…………レオン殿下。……兄上とは友人だからか? …同じ騎士だからか?レオン殿下も兄上同様、神がかった美貌だから気にならないのか??
……よく……この状況下で兄上の股間を触れるものです。何度も……。弟の私でも、無理ですよ……流石に……」)
新しい酒を増やし、三人で飲み直す。皆が久しぶりと感じていても、この三人で呑むのは初めてだった。
キャットは、懐かしさを胸に微笑む。
レオンは常に冗談を言いながら笑い。
アレンはこれから先、エルティーナの側にいる確約をもらい、触れ合えるだろう未来に思いを馳せる。