陽が昇ると同時にエルティーナは、目を覚ました。
しっかり寝てはいたが、今日という日が始まってほしくない気持ちと、早く始まってほしい気持ちとが入り混じっていて、胸が早鐘をうっている。
「あまり、寝むれなかったのに。眠くないし、頭がすごくスッキリしているわ」
手をつきながら、ゆっくりと身体を起こす。
昨日、寝る前にカーテンを開けたままにしていた為。朝の強い陽射しが部屋の中に射し込んでいる。
エルティーナは強い陽射しが大好きだった。長く外に出ていると頭痛がするし、肌が弱いからか皮膚がすぐ赤くなりただれる事もあった。でもこの強い光りを浴びたら産まれた!!という気持ちがおきる。
夜を迎える時……朝を迎える時……その移り変わりに血が沸き立つ感じがするからだ。
「…綺麗…だわ……空の色が変わっていく様子は本当に神秘的で美しい。……アレンみたい……」
ふと口に出た言葉に自分で笑う。
「私たら、やーね。何でもかんでもアレンを基準にしちゃうわ。ちょっと病気みたい、ふふふっ」
胸元のヘアージュエリーペンダントが輝き喜んでいるように見える。
ペンダントをはずし、愛しさを込めてそれに口付けを落とす。シルクの布地に包み木箱に入れ、それを引き出しの奥に隠すように片付ける。
引き出しの木と木が擦れる音を心地よく聴きながら、元の位置の状態に戻す。
緻密に彫り込まれた重厚な家具に跪き手を掲げ、棚の中にしまわれたヘアージュエリーに呼びかける。
「私に勇気をください。最後まで、涙を見せず笑っていられるように……」
祈りが終わった時……ナシルの声がドアの向こうから、聞こえてくる。
「エルティーナ様、お目覚めでしょうか?」
「ええ、起きてるわ」
エルティーナの声の後、何人もの侍女が入室してくる。
「「「おはようございます。エルティーナ様」」」
「おはようございます!今日も一日よろしくね」
「「「はい。勿論でございます」」」
和やかに、朝が始まった。
「エルティーナ様、今日のドレスはこちらで如何でしょうか?」
「まぁ!! スカイブルーね綺麗だわ! 私、この色が大好きなの……ピンクも好きだけど大柄な私にはあまり似合わないし、はっきりした色が好きだわ」
「喜んで頂けて嬉しいです。このドレスは、あまりお洋服の事に関して話されないアレン様が『このドレスを選んだのは誰だ』と聞かれまして。私です。とお答えしたら『エルティーナ様の魅力を引き出していて、とても素敵だ』と言っていたのを思い出しまして、こちらにしたのです」
「えぇぇーーー!? そんな事いってたの?? 私、知らないわ!!」
「とくに、話しておりませんよ。ただの会話ですし」
「…まぁそうだけど。雰囲気が可愛いとか、子供みたいな態度が和む。というのはアレンからよく聞くけど、見た目を褒められはしないから…教えて欲しかったわ」
少し不貞腐れていると、ナシルが笑う。
「申し訳ございません。でも、これを今日用意した私を褒めて頂きたく存じます」
「勿論よ!! さすがナシルだわ!! 百点満点よ!!
……あの……ごめんなさい。ナシル達も寂しいわよね……アレンを近くで見る事が出来なくなって……私の独断で決めて……驚いたでしょ。何も言わないのね??」
「エルティーナ様、私達は充分、アレン様を堪能致しました!!」
「そうですわ!! 充分ですわ」
「今日一日、最後だと思いガン見致します」
「やぁね、クキラ、それはやめた方が……」
「えーだって、エルティーナ様とアレン様のセットを見れなくなるのよ!! むしろ、絵姿が欲しいですわ」
「それ、私も欲しいわ!! 部屋に飾る!!」
いつもなら、ここでナシルの怒鳴り声が響くのだか……。
「私も、頂けるのならその絵姿を欲しいですね」
「「「「えっ………」」」」
「何ですか皆さん。手が止まっていますわよ」
「「「申し訳ございません」」」
静かになり、エルティーナの着せ付けに戻る。
「意外だわ……ナシルがそんな事、言うなんて…」
ドレスの着せ付けが終わり、寝室を出るように言われ驚く。
「ナシル、髪は? このままなの?? まだブラシしか入れてないわ?」
「髪は、外でお願い致します」
「えっ?? なんで??」
疑問をたくさん浮かべたまま、寝室をでると続き部屋にはアレンがもういた。
部屋の中にぶわっと花が咲いたように感じる。アレンには特別、花が似合う。
ソファーに腰掛けていたアレンが立ってこちらに身体を向ける。惚れ惚れする肉体には、きっちりと着こなされた白の軍服がとても映える。
振り向く仕草も美しく、後から遅れてくる銀色の髪が色香を放つ。
「エルティーナ様、おはようございます」
「おはよう! アレン!!」
アレンはエルティーナを。エルティーナはアレンを。互いが互いしか見えていない。そんな心地よい空間に、ナシルや侍女達も、うっとりとその光景に酔いしれる。
アレンがその空気を破るまで、美しい光景は続いていた。
「ではエルティーナ様。こちらにお座りくださいませ。また髪を結えるなんて嬉しいです。この間のとはまた違う編み方をしたいので、出来上がりを楽しみにしていて下さいませ」
「ふぇぇぇ!? ア、アレンが髪の毛をセットするの!?」
思わず、頭に手を置いてエルティーナは叫ぶ。
「……ご存知ではないのですか? 昨日の夜に言われたのですが……」
「サプライズでございます」
いけしゃあしゃあと言うナシルに、涙が出そうになる。早速、今日の目標が終わりそうである。
(「ナシル涙出るじゃない! もう〜」)
「嬉しい……くて、最高!! アレン、可愛くしてね!」
「かしこまりました。エルティーナ様はそのままでも、十分可愛いですよ」
甘ったるいアレンのキザったらしいセリフ………。毎日、毎日聞いてても、エルティーナの胸の鼓動は早くなる。
「では私達は朝食の準備、寝具の片付けをしてまいりますので。アレン様、エルティーナ様をよろしくお願い致します」
ナシルの発言にエルティーナは驚く。
(「二人っきりにしてくれるのね…。でも、そういう気遣いはいらないの!! 美しいものは皆で愛でるものなのよ!! だから…」)
「ナシル、私まだお腹すいてないわ。寝具の片付けも後でいいし、みんなでアレンの華麗な技術を見るべきよ!! また同じ髪型をしてもらいたし。アレンの髪結いはなかなかない形だから!! みんなで見てよ。いいかしら?? アレン」
「えぇ、かまいません」
「ほら、いいって!! ほらほら遠くにいてたら見えないでしょ、近くにきて」
紅茶の準備をしていた、エルティーナ付きではない侍女まで呼んだ。
わずか数メートルの位置にアレンがいる。そんな事が今までになかった侍女達は、感動し震えていた。
(「わぁぁ!!! みんな、嬉しそうだわ!! 私まで嬉しい!! 最高だわ!!」)
「エルティーナ様、では始めます」
「お願いします!!」
アレンは凄い……。最早それしか言えなくなっていた。始めはアレンの側に寄れて嬉しくはしゃいでた侍女達だが、今はもう誰も笑っていない。
王女付きの侍女は侍女の中でも優秀どころ、いわゆる教養や技術のトップクラス。侍女には侍女の高いプライドと矜持がある。だからこそアレンの髪結いは笑えないし、美貌がどうの、絵姿がどうの、話どころではなかった。
「エルティーナ様、出来上がりました。如何ですか?」
「うぁぁぁぁ〜すごいぃぃわぁ。髪の毛が花になっている!! これは薔薇ね!! アレン、ありがとう!!!」
「喜んで頂き、ありがとうございます」
楽しそうなのはエルティーナとアレンだけ、侍女達は胡乱な目で二人を見ていた…。
(「……侍女達の雰囲気がおかしい……?? 目が死んでる?? どうしたのかしら?? うん。早く部屋を出るべきね!!」)
「……朝食は、グラハの間で食べるわ!! 行きましょうアレン!!」
異様な空気になっている部屋からエルティーナは、アレンを連れて出る事にしたのだ。
それからの一日は本当に穏やかに過ぎていった。意外に涙も出なくて、この普通が一番だとエルティーナは感じてた……。
しっかり寝てはいたが、今日という日が始まってほしくない気持ちと、早く始まってほしい気持ちとが入り混じっていて、胸が早鐘をうっている。
「あまり、寝むれなかったのに。眠くないし、頭がすごくスッキリしているわ」
手をつきながら、ゆっくりと身体を起こす。
昨日、寝る前にカーテンを開けたままにしていた為。朝の強い陽射しが部屋の中に射し込んでいる。
エルティーナは強い陽射しが大好きだった。長く外に出ていると頭痛がするし、肌が弱いからか皮膚がすぐ赤くなりただれる事もあった。でもこの強い光りを浴びたら産まれた!!という気持ちがおきる。
夜を迎える時……朝を迎える時……その移り変わりに血が沸き立つ感じがするからだ。
「…綺麗…だわ……空の色が変わっていく様子は本当に神秘的で美しい。……アレンみたい……」
ふと口に出た言葉に自分で笑う。
「私たら、やーね。何でもかんでもアレンを基準にしちゃうわ。ちょっと病気みたい、ふふふっ」
胸元のヘアージュエリーペンダントが輝き喜んでいるように見える。
ペンダントをはずし、愛しさを込めてそれに口付けを落とす。シルクの布地に包み木箱に入れ、それを引き出しの奥に隠すように片付ける。
引き出しの木と木が擦れる音を心地よく聴きながら、元の位置の状態に戻す。
緻密に彫り込まれた重厚な家具に跪き手を掲げ、棚の中にしまわれたヘアージュエリーに呼びかける。
「私に勇気をください。最後まで、涙を見せず笑っていられるように……」
祈りが終わった時……ナシルの声がドアの向こうから、聞こえてくる。
「エルティーナ様、お目覚めでしょうか?」
「ええ、起きてるわ」
エルティーナの声の後、何人もの侍女が入室してくる。
「「「おはようございます。エルティーナ様」」」
「おはようございます!今日も一日よろしくね」
「「「はい。勿論でございます」」」
和やかに、朝が始まった。
「エルティーナ様、今日のドレスはこちらで如何でしょうか?」
「まぁ!! スカイブルーね綺麗だわ! 私、この色が大好きなの……ピンクも好きだけど大柄な私にはあまり似合わないし、はっきりした色が好きだわ」
「喜んで頂けて嬉しいです。このドレスは、あまりお洋服の事に関して話されないアレン様が『このドレスを選んだのは誰だ』と聞かれまして。私です。とお答えしたら『エルティーナ様の魅力を引き出していて、とても素敵だ』と言っていたのを思い出しまして、こちらにしたのです」
「えぇぇーーー!? そんな事いってたの?? 私、知らないわ!!」
「とくに、話しておりませんよ。ただの会話ですし」
「…まぁそうだけど。雰囲気が可愛いとか、子供みたいな態度が和む。というのはアレンからよく聞くけど、見た目を褒められはしないから…教えて欲しかったわ」
少し不貞腐れていると、ナシルが笑う。
「申し訳ございません。でも、これを今日用意した私を褒めて頂きたく存じます」
「勿論よ!! さすがナシルだわ!! 百点満点よ!!
……あの……ごめんなさい。ナシル達も寂しいわよね……アレンを近くで見る事が出来なくなって……私の独断で決めて……驚いたでしょ。何も言わないのね??」
「エルティーナ様、私達は充分、アレン様を堪能致しました!!」
「そうですわ!! 充分ですわ」
「今日一日、最後だと思いガン見致します」
「やぁね、クキラ、それはやめた方が……」
「えーだって、エルティーナ様とアレン様のセットを見れなくなるのよ!! むしろ、絵姿が欲しいですわ」
「それ、私も欲しいわ!! 部屋に飾る!!」
いつもなら、ここでナシルの怒鳴り声が響くのだか……。
「私も、頂けるのならその絵姿を欲しいですね」
「「「「えっ………」」」」
「何ですか皆さん。手が止まっていますわよ」
「「「申し訳ございません」」」
静かになり、エルティーナの着せ付けに戻る。
「意外だわ……ナシルがそんな事、言うなんて…」
ドレスの着せ付けが終わり、寝室を出るように言われ驚く。
「ナシル、髪は? このままなの?? まだブラシしか入れてないわ?」
「髪は、外でお願い致します」
「えっ?? なんで??」
疑問をたくさん浮かべたまま、寝室をでると続き部屋にはアレンがもういた。
部屋の中にぶわっと花が咲いたように感じる。アレンには特別、花が似合う。
ソファーに腰掛けていたアレンが立ってこちらに身体を向ける。惚れ惚れする肉体には、きっちりと着こなされた白の軍服がとても映える。
振り向く仕草も美しく、後から遅れてくる銀色の髪が色香を放つ。
「エルティーナ様、おはようございます」
「おはよう! アレン!!」
アレンはエルティーナを。エルティーナはアレンを。互いが互いしか見えていない。そんな心地よい空間に、ナシルや侍女達も、うっとりとその光景に酔いしれる。
アレンがその空気を破るまで、美しい光景は続いていた。
「ではエルティーナ様。こちらにお座りくださいませ。また髪を結えるなんて嬉しいです。この間のとはまた違う編み方をしたいので、出来上がりを楽しみにしていて下さいませ」
「ふぇぇぇ!? ア、アレンが髪の毛をセットするの!?」
思わず、頭に手を置いてエルティーナは叫ぶ。
「……ご存知ではないのですか? 昨日の夜に言われたのですが……」
「サプライズでございます」
いけしゃあしゃあと言うナシルに、涙が出そうになる。早速、今日の目標が終わりそうである。
(「ナシル涙出るじゃない! もう〜」)
「嬉しい……くて、最高!! アレン、可愛くしてね!」
「かしこまりました。エルティーナ様はそのままでも、十分可愛いですよ」
甘ったるいアレンのキザったらしいセリフ………。毎日、毎日聞いてても、エルティーナの胸の鼓動は早くなる。
「では私達は朝食の準備、寝具の片付けをしてまいりますので。アレン様、エルティーナ様をよろしくお願い致します」
ナシルの発言にエルティーナは驚く。
(「二人っきりにしてくれるのね…。でも、そういう気遣いはいらないの!! 美しいものは皆で愛でるものなのよ!! だから…」)
「ナシル、私まだお腹すいてないわ。寝具の片付けも後でいいし、みんなでアレンの華麗な技術を見るべきよ!! また同じ髪型をしてもらいたし。アレンの髪結いはなかなかない形だから!! みんなで見てよ。いいかしら?? アレン」
「えぇ、かまいません」
「ほら、いいって!! ほらほら遠くにいてたら見えないでしょ、近くにきて」
紅茶の準備をしていた、エルティーナ付きではない侍女まで呼んだ。
わずか数メートルの位置にアレンがいる。そんな事が今までになかった侍女達は、感動し震えていた。
(「わぁぁ!!! みんな、嬉しそうだわ!! 私まで嬉しい!! 最高だわ!!」)
「エルティーナ様、では始めます」
「お願いします!!」
アレンは凄い……。最早それしか言えなくなっていた。始めはアレンの側に寄れて嬉しくはしゃいでた侍女達だが、今はもう誰も笑っていない。
王女付きの侍女は侍女の中でも優秀どころ、いわゆる教養や技術のトップクラス。侍女には侍女の高いプライドと矜持がある。だからこそアレンの髪結いは笑えないし、美貌がどうの、絵姿がどうの、話どころではなかった。
「エルティーナ様、出来上がりました。如何ですか?」
「うぁぁぁぁ〜すごいぃぃわぁ。髪の毛が花になっている!! これは薔薇ね!! アレン、ありがとう!!!」
「喜んで頂き、ありがとうございます」
楽しそうなのはエルティーナとアレンだけ、侍女達は胡乱な目で二人を見ていた…。
(「……侍女達の雰囲気がおかしい……?? 目が死んでる?? どうしたのかしら?? うん。早く部屋を出るべきね!!」)
「……朝食は、グラハの間で食べるわ!! 行きましょうアレン!!」
異様な空気になっている部屋からエルティーナは、アレンを連れて出る事にしたのだ。
それからの一日は本当に穏やかに過ぎていった。意外に涙も出なくて、この普通が一番だとエルティーナは感じてた……。