闘技場を横切ると、先ほど見せた練習試合の賞賛や、興奮する声が周りから押し寄せる。
アレンは皆の声を暑苦しいと感じながらも、声の主には目線を合わせて「ああ」と返事を返した。
歩きながら、レオンの言葉を思い出す。公平で賢王の素質があるレオンでさえ、不治の病は怖いらしい……。
この国を受け継ぐものとしては当たり前の態度だと思うから不快だとは感じない。今まで会った全ての人が同じ態度と同じ反応。
しかしエルティーナだけが違っていて、変わっている。十一年前の骨と皮だけのアレンを見て美しいと表現するところがそもそもおかしい。今の姿なら分かるが……。
吐血するアレンを、その身に血をかぶりながらも抱き締めるエルティーナが変わっている。アレンの実の家族でさえ、吐血している時は遠目で見ていたし近寄らなかった。
アレンが一番苦しい時に、エルティーナは抱きしめてくれた。あの時、本当に死んでも悔いはなかった。
…初めて…生きている事に…喜びを感じられた。生まれてきて良かったと思えた。エルティーナが望む事は、全て叶えたいと強く思う。
一先ずはミダにチョコレートを頼みに行こう。アレンが行ったら断らないだろう。ミダの支配人が名残惜しそうに何時までもアレンとレオンを見ていたから。
「エル様。私は貴女の盾になりたい。
その為に毒物に身体をならした。
その為に誰にも負けない肉体をつくった。
その為に私は騎士になった。
貴女から頂いた愛を返したい……どうかそれまで……私の命が…続くように…」
グラハの間では、朝食が終わり帝王学の授業が始まっていた。
「ラズラ様って本当に凄いです。どうしてスチラ国以外にも、ボルタージュ国やバスメール国の歴史や国の成り立ちまでご存知なんですか??」
「私の代でスチラ国を衰退させる訳にはいかないからよ。私はその為に生きているのだから」
「ラズ、ではこれからは僕の為にも生きてほしいな。僕の頭脳が 欲しくての結婚だったよね。だったら君の考えも半分、分けてほしい、その為に僕はスチラ国に行くのだから」
エルティーナはグリケットを見る。
(「そうだわ、グリケット叔父様は全てを知っていてラズラ様と結婚されるんだわ…。ラズラ様が話していた…」)
『私とグリケット様は本当の政略結婚。スチラ国には後継ぎが私しかいない。万が一秘密がばれた時でも、大国ボルタージュ国の王弟が伴侶だと民が安心するからグリケット様と結婚するの』
(「そう、聞いたけど、そんなの悲しいわ。まるでグリケット叔父様の事は好きじゃないみたいで…。私が口を挟むことではないけど」)
エルティーナが悶々としている時、ラズラが屈託のない笑顔をグリケットにみせる。
「グリケット様。何か勘違いされているわ。確かにグリケット様の頭脳は、スチラ国に必要だし典型的な政略結婚だわ。
でも私はグリケット様に一目惚れなんですよ。貴方が初めてスチラに来られた時、謁見を盗み見ていて。私のイメージ通りの王子様に恋をしたんです。
王子様に恋をしない乙女なんておりませんわ。
私は賢いですから、外堀を埋めて逃げられなくなったから、捕まえにきたんです。グリケット様は まんまと私に捕まったのですわ。ふふふ。」
「まぁぁぁ!!! 素敵ぃぃぃ!!! グリケット叔父様は綺麗で美しいですもの。アレンやお兄様には負けますけど、お父様よりは断然美男子ですわ!!!」
ラズラのいきなりの告白に驚いて「まさか? ラズが??」 という気持ちの時、エルティーナからのあまり褒められた気がしない賛辞を聞いて肩が落ちた。
「私は、王道王子様が好きなの」
「確かに、グリケット叔父様は王道の王子様ですわ! お兄様は王子様というより騎士ですもの。…まぁお父様も」
つけたしのように、父を入れるエルティーナ。昔、身体の事を色々言われ、その事をまだ根にもっていたのだ。なかなか執念深い面もエルティーナにはあった。
「はははっ。エルティーナは相変わらず兄上には厳しいね。
…ラズ…実は僕もラズに 一目惚れだったんだよ。結婚なんて煩わしいからね。もともとするつもりはなかったんだ。
それこそ王道ヒロインの見た目のラズは僕のタイプだ。でも結婚を考えたのは、君の内面を知ってもっと好きになったからだよ。僕は捕まってないよ。捕まったフリをしたんだ」
涙目になってるラズラを見て、柔らかく微笑むグリケットを見て、エルティーナは静かに心内で手を叩いて大興奮していた。
(「叫びたいわぁ!! 叫びたいわぁ!! 叫びたいわぁ!!! 素敵! 素敵!! 素敵!! なんて素敵なの!! 事実は小説より奇なりだわ!!!」)
ラズラは涙目を隠すために、エルティーナの頬をペンで刺す。
刺されたエルティーナは凄い笑顔。エルティーナの笑顔を見てラズラは無性に負けた気がして、ペンをエルティーナの頬にぐりぐりねじ込む、がまだエルティーナは満面の笑みだ。
あたたかく見守っていたグリケットだが、段々ラズラの意地悪がエスカレートしていく。
頬が赤くなりペン痕がめりめり広がっていくも、まだエルティーナは満面の笑み。
「ラズ! そろそろ止めなさい、今アレンが入ってきたら冗談ですまないから」
ラズラはグリケットの言葉にハッと気づき、エルティーナの頬にペンをねじ込むのを止めた。
エルティーナの満面の笑みはまだ続き、ラズラは軽く舌打ちをした。
「ラズ…行儀悪いよ」
グリケットがラズを諌めていた時、ノックとともにドアが開きアレンが入ってきた。アレンの姿を見て、ラズラもグリケットも一瞬息が止まる。
まさに間一髪だったのだ。
「グリケット様、授業は後どれほどでしょうか?」
グラハの間に入室してきたアレンは、先ほどまでの妖艶さはなくなり、また硬質で近寄り難い美貌のアレンに戻っていた。
「区切りがいいところだから、ここまでにするよ、いいねエルティーナ」
「はい!」
グリケットの言葉に満面の笑みで返事をするエルティーナ。アレンはそんなエルティーナに近づいて目線を合わした瞬間、部屋に冷気が入った。
「エルティーナ様。頬、どうしたのですか。かなり赤くなっておりますが」
(「ぎゃぁ。寒いわ寒い。やばいわね…」)
ラズラが固まりグリケットは溜め息、そんなアレンの絶対零度の雰囲気の中、エルティーナはまだ満面の笑みである。
「何もないわ!! 赤くなってるの? どうしたのかしら? ふふふふふ。あっアレンが頬っぺたにチュッてキスしてくれたら、治るかも!! えへへへ〜 冗談だけどぉ〜」
エルティーナはラズラとグリケットの話を聞いて舞い上がっていた。
乙女代表みたいな子であるエルティーナは、二人の想い合う姿は大好物なのだ。
人の幸せを素直に祝福でき、自分の事のように喜べるのがエルティーナの魅力であり好かれる理由。幸せいっぱいで、普段なら絶対言わない甘えが口に出た。
ふわふわしているエルティーナのビックリ発言にアレンもラズラもグリケットも固まる。
アレンの絶対零度の雰囲気が和らぎ、今朝のような甘ったるい雰囲気に変わる。
それに気づいたエルティーナは「そんな、固まらなくても〜冗談よ?」可愛らしく首を傾ける。
「エルティーナ様、口は災いの元という言葉を知りませんか?」
アレンのいきなりの質問にきょとんとして「知ってるわ」とエルティーナが言おうと思ったら目の前に柔らかな銀色の髪が見えた…後、頬に少し湿った柔らかな物体が這う。「えっ!?」と思ったら至近距離でアレンと目が合う。
うっとりと見られた後、もう一度頬に先ほどとは違う柔らかさの感触がして、耳元にチュッっと軽く啄ばむ音が聞こえて……。
エルティーナは倒れる。
「あっまた、倒れた……」
ラズラは真っ赤になって倒れるエルティーナを本日、二回目と思いながら見ていた。
「グリケット様、授業は終わりとの事でしたので、エルティーナ様を自室に送ってまいります。ラズラ様も失礼致します」
アレンは、気絶したエルティーナを大切そうに抱き上げて連れて行く。また被害が出そうな甘ったるい雰囲気のまま。
「めんどくさい、関係ね」
「あぁ……そうだね」
二人は仲良く溜め息を吐いた。
アレンは皆の声を暑苦しいと感じながらも、声の主には目線を合わせて「ああ」と返事を返した。
歩きながら、レオンの言葉を思い出す。公平で賢王の素質があるレオンでさえ、不治の病は怖いらしい……。
この国を受け継ぐものとしては当たり前の態度だと思うから不快だとは感じない。今まで会った全ての人が同じ態度と同じ反応。
しかしエルティーナだけが違っていて、変わっている。十一年前の骨と皮だけのアレンを見て美しいと表現するところがそもそもおかしい。今の姿なら分かるが……。
吐血するアレンを、その身に血をかぶりながらも抱き締めるエルティーナが変わっている。アレンの実の家族でさえ、吐血している時は遠目で見ていたし近寄らなかった。
アレンが一番苦しい時に、エルティーナは抱きしめてくれた。あの時、本当に死んでも悔いはなかった。
…初めて…生きている事に…喜びを感じられた。生まれてきて良かったと思えた。エルティーナが望む事は、全て叶えたいと強く思う。
一先ずはミダにチョコレートを頼みに行こう。アレンが行ったら断らないだろう。ミダの支配人が名残惜しそうに何時までもアレンとレオンを見ていたから。
「エル様。私は貴女の盾になりたい。
その為に毒物に身体をならした。
その為に誰にも負けない肉体をつくった。
その為に私は騎士になった。
貴女から頂いた愛を返したい……どうかそれまで……私の命が…続くように…」
グラハの間では、朝食が終わり帝王学の授業が始まっていた。
「ラズラ様って本当に凄いです。どうしてスチラ国以外にも、ボルタージュ国やバスメール国の歴史や国の成り立ちまでご存知なんですか??」
「私の代でスチラ国を衰退させる訳にはいかないからよ。私はその為に生きているのだから」
「ラズ、ではこれからは僕の為にも生きてほしいな。僕の頭脳が 欲しくての結婚だったよね。だったら君の考えも半分、分けてほしい、その為に僕はスチラ国に行くのだから」
エルティーナはグリケットを見る。
(「そうだわ、グリケット叔父様は全てを知っていてラズラ様と結婚されるんだわ…。ラズラ様が話していた…」)
『私とグリケット様は本当の政略結婚。スチラ国には後継ぎが私しかいない。万が一秘密がばれた時でも、大国ボルタージュ国の王弟が伴侶だと民が安心するからグリケット様と結婚するの』
(「そう、聞いたけど、そんなの悲しいわ。まるでグリケット叔父様の事は好きじゃないみたいで…。私が口を挟むことではないけど」)
エルティーナが悶々としている時、ラズラが屈託のない笑顔をグリケットにみせる。
「グリケット様。何か勘違いされているわ。確かにグリケット様の頭脳は、スチラ国に必要だし典型的な政略結婚だわ。
でも私はグリケット様に一目惚れなんですよ。貴方が初めてスチラに来られた時、謁見を盗み見ていて。私のイメージ通りの王子様に恋をしたんです。
王子様に恋をしない乙女なんておりませんわ。
私は賢いですから、外堀を埋めて逃げられなくなったから、捕まえにきたんです。グリケット様は まんまと私に捕まったのですわ。ふふふ。」
「まぁぁぁ!!! 素敵ぃぃぃ!!! グリケット叔父様は綺麗で美しいですもの。アレンやお兄様には負けますけど、お父様よりは断然美男子ですわ!!!」
ラズラのいきなりの告白に驚いて「まさか? ラズが??」 という気持ちの時、エルティーナからのあまり褒められた気がしない賛辞を聞いて肩が落ちた。
「私は、王道王子様が好きなの」
「確かに、グリケット叔父様は王道の王子様ですわ! お兄様は王子様というより騎士ですもの。…まぁお父様も」
つけたしのように、父を入れるエルティーナ。昔、身体の事を色々言われ、その事をまだ根にもっていたのだ。なかなか執念深い面もエルティーナにはあった。
「はははっ。エルティーナは相変わらず兄上には厳しいね。
…ラズ…実は僕もラズに 一目惚れだったんだよ。結婚なんて煩わしいからね。もともとするつもりはなかったんだ。
それこそ王道ヒロインの見た目のラズは僕のタイプだ。でも結婚を考えたのは、君の内面を知ってもっと好きになったからだよ。僕は捕まってないよ。捕まったフリをしたんだ」
涙目になってるラズラを見て、柔らかく微笑むグリケットを見て、エルティーナは静かに心内で手を叩いて大興奮していた。
(「叫びたいわぁ!! 叫びたいわぁ!! 叫びたいわぁ!!! 素敵! 素敵!! 素敵!! なんて素敵なの!! 事実は小説より奇なりだわ!!!」)
ラズラは涙目を隠すために、エルティーナの頬をペンで刺す。
刺されたエルティーナは凄い笑顔。エルティーナの笑顔を見てラズラは無性に負けた気がして、ペンをエルティーナの頬にぐりぐりねじ込む、がまだエルティーナは満面の笑みだ。
あたたかく見守っていたグリケットだが、段々ラズラの意地悪がエスカレートしていく。
頬が赤くなりペン痕がめりめり広がっていくも、まだエルティーナは満面の笑み。
「ラズ! そろそろ止めなさい、今アレンが入ってきたら冗談ですまないから」
ラズラはグリケットの言葉にハッと気づき、エルティーナの頬にペンをねじ込むのを止めた。
エルティーナの満面の笑みはまだ続き、ラズラは軽く舌打ちをした。
「ラズ…行儀悪いよ」
グリケットがラズを諌めていた時、ノックとともにドアが開きアレンが入ってきた。アレンの姿を見て、ラズラもグリケットも一瞬息が止まる。
まさに間一髪だったのだ。
「グリケット様、授業は後どれほどでしょうか?」
グラハの間に入室してきたアレンは、先ほどまでの妖艶さはなくなり、また硬質で近寄り難い美貌のアレンに戻っていた。
「区切りがいいところだから、ここまでにするよ、いいねエルティーナ」
「はい!」
グリケットの言葉に満面の笑みで返事をするエルティーナ。アレンはそんなエルティーナに近づいて目線を合わした瞬間、部屋に冷気が入った。
「エルティーナ様。頬、どうしたのですか。かなり赤くなっておりますが」
(「ぎゃぁ。寒いわ寒い。やばいわね…」)
ラズラが固まりグリケットは溜め息、そんなアレンの絶対零度の雰囲気の中、エルティーナはまだ満面の笑みである。
「何もないわ!! 赤くなってるの? どうしたのかしら? ふふふふふ。あっアレンが頬っぺたにチュッてキスしてくれたら、治るかも!! えへへへ〜 冗談だけどぉ〜」
エルティーナはラズラとグリケットの話を聞いて舞い上がっていた。
乙女代表みたいな子であるエルティーナは、二人の想い合う姿は大好物なのだ。
人の幸せを素直に祝福でき、自分の事のように喜べるのがエルティーナの魅力であり好かれる理由。幸せいっぱいで、普段なら絶対言わない甘えが口に出た。
ふわふわしているエルティーナのビックリ発言にアレンもラズラもグリケットも固まる。
アレンの絶対零度の雰囲気が和らぎ、今朝のような甘ったるい雰囲気に変わる。
それに気づいたエルティーナは「そんな、固まらなくても〜冗談よ?」可愛らしく首を傾ける。
「エルティーナ様、口は災いの元という言葉を知りませんか?」
アレンのいきなりの質問にきょとんとして「知ってるわ」とエルティーナが言おうと思ったら目の前に柔らかな銀色の髪が見えた…後、頬に少し湿った柔らかな物体が這う。「えっ!?」と思ったら至近距離でアレンと目が合う。
うっとりと見られた後、もう一度頬に先ほどとは違う柔らかさの感触がして、耳元にチュッっと軽く啄ばむ音が聞こえて……。
エルティーナは倒れる。
「あっまた、倒れた……」
ラズラは真っ赤になって倒れるエルティーナを本日、二回目と思いながら見ていた。
「グリケット様、授業は終わりとの事でしたので、エルティーナ様を自室に送ってまいります。ラズラ様も失礼致します」
アレンは、気絶したエルティーナを大切そうに抱き上げて連れて行く。また被害が出そうな甘ったるい雰囲気のまま。
「めんどくさい、関係ね」
「あぁ……そうだね」
二人は仲良く溜め息を吐いた。