「……うぅ…ん…」

 エルティーナの甘い声でラズラは目を覚ました。ゆっくり頭を移動させ右隣に目をむける。穏やかな寝息をたてるエルティーナの柔らかい頬には、くっきりと涙の跡がみえる……。

「可愛い可愛いエルティーナ。貴女の魂は、何故そんなに綺麗なのかしら…」


 ラズラは今まで、そしてこれからも、心臓が動かなくなるその時まで、自分を偽って生きていく。
 ボルタージュの方達をスチラ国の全国民を……騙しながら生きていく。スチラ王族の血をひいていないラズラが女王になる。

 エルティーナと会って、懺悔みたいに話をした。
 話をしながら、私は自分の生い立ちを馬鹿馬鹿しく「嘘みたいな物語でしょ」と話した。そんな私に貴女は、笑う事もなく、泣くわけでもなく、あの時一番欲しかった言葉を私にくれた。

『ええ。凄い物語だわ。でも決して嘘じゃない。今も生きている本当の物語だわ』

 そうなの。この物語は遊びで造った物語ではない、私が生きてきた過去と生きていく未来の実話だから。目をそらさないでみてくれる貴女は私の心を軽くしてくれた。

 本当に嬉しかった。

「…エルティーナ。貴女に何かあったら、私は権力を使うから、スチラ国の全ての権力を使い貴女を助けてあげるわ。だから、幸せになってね、私の大切な二人目の友人」

 感動していたが、エルティーナの寝顔を見ていたら何やら思考が脱線してきた。

(「レオン様とアレン様がお好きなスチラの王女様とエルティーナの三人で話をしたら、盛り上がるだろうな〜。
 でも…エルティーナはいいとして王女様には酷かな?? レオン様はイメージ通りだけど。アレン様はかなり過激で恐い人だから…ね。イメージがつぶれるから…嫌かな。
 レオン様の首を跡が残るほど絞めるだなんて…。見た目は高潔な神でも、中身は凶悪な猛獣よ」)

 アレンの姿を思い浮かべ、エルティーナの昔話に思いを馳せる。


(「アレン様が、十一年前にエルティーナに会っていたなんて…。
 八歳のエルティーナより弱い腕力って…。エルティーナが抱きしめれるくらい細い身体って…。
 今のお姿を知っているだけに、全く想像が出来ないわ。でも…エルティーナに再会するまでの四年間はアレン様にとって地獄だったはず。
 ほぼ身体が出来上がっている歳で、さらに病持ちのハンデから、今のあの肉体をつくるまで……どれほど、どれほど、過酷で辛い日々を過ごしたのだろうか……。本当に…強靭な精神力だわ。
 スチラ国に帰るまでに、ヘアージュエリーをエルティーナに教えてあげようかな。魂を縛る効力があるって言い伝えられているから、普通は怖くて造らないけど……。でも是非とも二人には縛られてほしいな。今世でダメでも来世には……ね。いつか……エルティーナとアレン様のお話を書きたいわね……。
 きっと…ボルタージュ王国に語り継がれる永遠の恋物語になると思うわ」)


 思案していたラズラに、起きたてのエルティーナは意識がふわふわになりながらも挨拶をしてきた。

「…ラズラ様…おはよう…ございます。…もう起きていたのですね」

「おはよう、エルティーナ。しばらく、貴女の寝顔を見ていたのよ。変な寝言をたくさん話していたわよ。驚いたわ」

「嘘!? 私、そんなに変な寝言を話してましたか!? どのような言葉ですか!? 教えてくださいませ!!」

 眠気ふっとぶ言動に挙動不審。エルティーナは寝言なんて言ってない…はず。ラズラの嘘である…と願いたい。

 真っ赤な顔をして、瞳を潤ませながら必死に話す姿が面白くて。ラズラはまたエルティーナを揶揄う。止めてくれるグリケットがいない為、ラズラの独壇場となってしまう。

 純粋なエルティーナを揶揄うのは、申し訳ないが楽しくて仕方がないのだ。ラズラはわざとらしく、布団を持ち上げて顔を半分隠す。目線をエルティーナからはずし、恥じらってみる。

「言えないわ。だって恥ずかしいもの。エルティーナの見てる夢って、とても恥ずかしいわ」

「違います! 違いますわ!! いつもはあんな夢、見ないわ!! 寝る前に、たくさんアレンとの昔話をしたから、みただけ。
 だからいつもじゃないです!!」

 全身を赤く染め上げ、必死に弁解するエルティーナに、ラズラはぽかーんと口を開く。

(「ち、ちょっと。どんな、夢をみてたのよ………。エルティーナって見かけによらずエッチなのね……。新たな一面発見だわ」)

 エルティーナはまだ必死に弁解している。


「ラズラ様! 忘れて、忘れてください!! だって。だって。あれは違うんです! 変態みたいですけど、願望とかではなくて。
 ただ、今だったら……って思ってしまって。本当にいつもじゃないんです!!」

(「あれは違う? 変態? 願望? 今だったら? この言葉たち。そして昨日の話から推測すると……うむ………」)

「あぁ、なるほど。昔、アレン様を押し倒して襲った事を、今の姿の貴女達で妄想したわけね。なかなかやるわね」

「あっ……倒れた」

 エルティーナは茹ってしまい失神した…。

「…今…起きたとこなのに。純真無垢な子ほど、エッチなのかしら……」

 ラズラはベッドに再度倒れたエルティーナをしげしげ見つめ、着替えを頼むため、エルティーナ付きの侍女をベルで呼んだ。

 顔を赤くして寝ている(失神している)エルティーナをナシル以下侍女達が胡乱な目でみている。ラズラはひたすら知らないフリをする。流石に内容は話せないからだ……。

 二人して、身支度が終わる頃、エルティーナはラズラに可愛く頬を膨らませて抗議をした。

「ラズラ様は、意地悪だわ!」

「何を言うのよ。私は夢の内容までは問うてないわ。エルティーナが勝手に話したのよ」

 涙目のエルティーナに、ラズラは微笑む。

「意地悪したくなるのよ、エルティーナは。反応が可愛くて。意地悪をするのは、大好きだからよ。一国の主になる私が、心を開いて話せる人なんて、エルティーナくらいなの。私の二人目の大切な友人だわ」

「……二人目?」

「一人目は、私の最初の読者よ」

「……っ……ラズラ様、私で良ければ、意地悪してください!! これでも私、打たれ強いんです!! じゃん、じゃん、どうぞです!!」

「あははははは、ありがとう!! 大好きよエルティーナ」

「私も、ラズラ様が大好きです!!!」

 二人で告白をしていると、ナシルが二人の間にすっと入ってくる。

「支度は終わりました。グリケット様、アレン様がお待ちです」

「「今、まいります」」

 エルティーナの声とラズラの声が綺麗にかぶる。二人は見つめ合い、小さく吹き出す。ナシルが二人に「行儀が悪いですよ」と注意をする。心地よい空気が部屋を満たしていく。…幸せな朝だった。