私は、隠し通路を歩いていました。冒険家になったつもりだった。そしてしばらく歩いていると、遠くから咳き込む声が聞こえてきて、すごくすごく苦しそうで、たまらなくなって、咳き込む声の方に歩いていきました。

 小さな隠し通路の扉を開け、明るい部屋の中に入った。

 そこで私は天使に会った………。

 ベッドの上に座っている、天使に会った。
 天使は凄く驚いていて………。私はその天使に魅せられ、ベッドの近くまでゆっくり歩いていきました……。


「……あなたは人間?? ……天使…よね?? そうよね?? 綺麗だわ。わぁぁぁ…初めて見たわ。本当に綺麗……」

 エルティーナは極上の笑顔でベッドに乗り上がる。

「……君は誰?? 今、隠し通路から出てきたけど……ちょっと近づかないで。病気がうつるかもしれないよ」

「病気ってなに? どうでもいいわ、そんなこと。はぁぁ…貴方綺麗ね。わぁ…髪の色は銀色だわ!! なんて美しいの!! 柔らかいわ、さらさらね。羨ましいわぁ」

「ち、ちょっと、触らないで。君が汚れるよ。ゴホッ ゴホッ」

「えっ。大丈夫? こうしたら楽になる??」

 エルティーナは、アレンの背中に手を当てて優しく軽く撫でた。しばらくそうしてると、小さな声が聞こえてくる。

「……ありがとう」

「何をいうの、これくらい。わぁ貴方、瞳も綺麗なのね。
 何ていう宝石だったかしら…ほらっ〝愛の守護〟っていう…うぅ………あぁっ!! 思い出したわっ!! アメジストよ!! アメジスト!!
 あぁぁぁ 貴方は本当に綺麗ね、私にはお兄様がいるんだけど、お兄様がこの世で一番美しいと思っていたけど。貴方の方が断然綺麗で美しいわ!!」

「ふふふ。僕には君の方が天使に見えるし、美しいと思うよ。隠し通路から君が出てきた時、天国にきたと思ったから。僕は死んだんだって思ったよ」

「もう! なんて事いうの!? 死ぬだなんて、簡単に言っては駄目よ」

 エルティーナは目の前にある綺麗な形の唇を、人差し指で プニュンと押して言葉の注意を示した。

「……君は、優しいね。あまり生きてきて、いい事はなかったけど、君に会えた事は生きてきた価値があったと思うよ」

「…む、難しい事をいうのね…」


 チュッ。

「ちょっと、君!! な、何をするの!?」

 チュッ。

「………柔ら……かい……わ……。チュッ。チュッ。チュッ。……ぅん チュッ」

 人差し指で触った唇の柔らかさに好奇心が芽生え、さらに唇を合わせてみたら気分が高揚し、もうアレンの唇の柔らかさに虜となっていく。
 まるでエルティーナの大好きな恋愛小説でよくする行為だ。恋人同士が愛を確認する口づけに日々興味津々だったが、想像以上に素晴らしかった。
 ババロアのような弾力があって、暖かく角度で感触が変わる。気持ちよくてやめられない。

 チュッ。プチュッ、チュッチュッ。

「まって、まって、やめて。こんなことしたら本当に、病気がうつるから…
……ぅん……駄目だっ………って…んっ
…はぁっ……ぅん……っんっ…ぁっ………ゴホッ、ゴホッ ゴホッ ゴホッ ゴホッ ゴホッ」

 咳き込むと同時に口からは大量の真っ赤な血が、エルティーナの服をアレンの服を濡らす。

「ぅぁぁあぁぁーーー。ごめんなさい。大丈夫!? 大丈夫!?」

 エルティーナは吐血するアレンの背中に手を回し優しく抱きしめながら、背中をさする。細く折れそうな身体を……。

「早く早く、止まれ。咳、止まれ」必死に願いを口にしながら、吐血するアレンを抱きしめた。

「……君は、やっぱり天使だよ…ゴホッ……最後に神様が…僕にも……僕だけの天使を…ゴホッ……」

「もう!! 話さないで! 咳き込むんでしょ!! 黙ってて!!」

 私はしばらくそうしてて。アレンの咳が止まったから。一旦離れて。血まみれだったから服を脱ぎました。全部。裸になって…。




「はぁぁぁぁぁぁ!? なに!? 私の聞き違い!?」

「ラズラ様。声が大きいわ!静かに!!」

「ごめんなさい。衝撃的で……。アレン様の衝撃が分かるわ……。だって、貴女は八歳でも…アレン様は十七歳よね………。うん?? 貴女八歳にしては発育がいいって言ってたわよね!? まさか……」

 絶句する、ラズラに。

「………はい。全部脱ぎました。アレンの前で……。それで、アレンも血まみれだったから。だから、脱がしたの、無理やり…ね……服を剥ぎ取りました」

「……よくやるわ……」


 それから、抵抗するアレンに馬乗りになって、また口付けをして…。真っ白なすべすべの肌が気持ちよくて、血を拭いてあげると言いながら身体をいっぱい触りました。
 アレンも最初は抵抗していましたが、…あの時は私の方が腕力があったので……押さえつけていたら、だんだん抵抗しなくなってきて。
 ただ合わせていた口付けが深くなってきて……。拭えきれないほど涎を垂らしながら舌をグニグニ押し合い、お互いの身体を触っては密着させてと。
 女の私とは違う身体が珍しくて、その色々な…部位が違っていて。至近距離で見たらそれがとても物珍しくて。
 それで……あの…形が変わっていく……その男性器が面白くて………アレンが全く抵抗しないのをいいことに、興奮しながら触りまくりました。

 しばらくしてメルタージュ侯爵と侍女が部屋に入ってきて、侍女の悲鳴と共にアレンから引き剥がされ……。そのまま私は、王宮に連れて行かれました。

 馬車の中でずっと、メルタージュ侯爵が泣いていたから、大人の男の人が泣いているのに驚いて……。
 私は王宮に帰っても何も言わなかった。誰にも…お父様にもお母様にもお兄様にも、メルタージュ侯爵家の出来事は話さなかった。
 だから、もうあの時の天使の男の子とは会えないんだって思っていたら、私の大好きな庭園で再会したんです!!



「お兄様と一緒に、私付きの騎士になる為に挨拶に来たんです!!
 ……でも……覚えてなかった……。全く……。そんな素振りもなくて……。でも違う人じゃない!!
 私はあの時、はじめて恋に落ちた。あれからずっとずっと大好きだった!! でも…それは、私だけ…だった……。
 ……アレンには、沢山恋人がいます。スレンダーで小さくて綺麗な人が………。抱き合っているのも、口付けしているのも、何回も 何回も 何回も …見た…ことが…あるから。
 だから……早く……私から……解放してあげたいけど……でも…離れたくなくて……せっかく出会えたのに…また…離れないといけないなんて。
 アレンには好きな人がいるから。王女の権力を使って、アレンと夫婦にはなりたくない。軽蔑されたくないから。
 だから、あと少しだけ…あと少しだけ……夢を…見たいです……あと少し…だけ……」

 エルティーナの声は嗚咽に変わり、涙は決壊する。

「分かったわ! 分かったわ!! 貴女は偉い。幸せになれるわよ。いいえ、幸せになりましょう!! ね! 約束!!」

 ラズラはエルティーナの小指に自身の小指を絡ませ、微笑んだ。




 ラズラは、泣きながら眠るエルティーナを見て思う。

「エルティーナ。アレン様はしっかり全部覚えているわよ。……恋は盲目ね…。
 何故気づかないの??
 出会った時、見た目が小さな男の子だったとしても、アレン様の中身は十七歳の青年よ。
 忘れるわけが無いじゃない。
 血を吐き続けるくらいの病が治っているとは思えない。
 貴女と一線を越えない…夫婦にならない理由は、病持ちで…長く生きれない身体だからよ。アレン様は、越えたくても…越えれられないのよ……。彼にとって、貴女以上に大切な人はこの世に存在しない。
 貴女の側で残りの人生を生きることがアレン様にとって一番の幸せで、彼が生きる原動力となっているのよ、……きっと」