「まぁ!凄いですわ。流石大国ボルタージュね。これほど大きく重厚で、美しい繊細な彫りが施されているベッドは初めて見たわ。大きいだろうとは思っていたけど、これ程とは思わなかったわ」

「気に入って頂けて良かったです。お友達とお話しながら眠るなんて初めててドキドキ致しますわ。…お背中も流したかったのに…。残念です…」

「エルティーナは流石王女ね、他人に肌を見せるのが不思議に思わないあたり」

「?? ラズラ様も王女様ですわ? それに…侍女は他人ではありません。私の大切な方たちです。ラズラ様も私の友達だから大丈夫です。それ以外の方は嫌ですわ」

「そうなんですね。じゃあアレン様は?」

 ラズラのサラッと投下された爆弾発言にエルティーナは一気に沸騰する。

 今はもう、ラズラとエルティーナ二人だけになっていて。ベッドの上で眠る前だった。

 その為薄いシュミーズだけしか着用していないので、エルティーナの全身が赤く染まっているのが丸わかり。
 ラズラにとってエルティーナの反応は思っていた以上で、自ら質問を投げかけたはずであったが、かなり驚いてしまった。

 真っ赤になって可愛らしい口を魚のようにパクパクしているのを見て、ラズラは人差し指でエルティーナの唇をつつき「エルティーナのエッチ」と笑いながら言ったのだ。


 バフンッ!!

 エルティーナは「いゃぁぁぁぁ!!」と叫びながら布団に顔面を叩きつける。

(「うぉ。可愛い反応!! 何かしらこの反応は。アレン様の事は私のお兄様〜くらいにしか思っていないのかと推測していたけど…。
 何? 何!? バッチリガッチリ意識しているじゃない?? 妹みたいに振舞っているのは演技!? やだぁエルティーナは、なかなかの演技派ねぇ。私を欺くなんて。見直したわ」)
 ラズラは心の中で賞賛する。


 まだ布団に顔を埋めているエルティーナの頭をラズラは、ポンポン叩く。

「まぁまぁ。そんなに恥ずかしがらなくても。想像するくらいいいじゃない。誰の迷惑にもかからないし、なんたって自分が楽しいじゃない? 素敵よ! 違う??」

 布団に顔を埋めていたエルティーナがゆっくり起き上がってくる。顔はまだ真下を向いているが、ラズラに小さな声が聞こえてくる「……違わない…」と。

「うん。違わないわね。だいたい、超絶美貌のアレン様を見て〝妄想しないわ〟なんて乙女はいないわよ。それはすでに人間ではないわ。うん、そうよ。ねっ!!」

 ラズラの言葉に、エルティーナは顔を上げる。そして本当に本当に嬉しそうに頷いている。

「そんなに頭を上下に振ったら酔うわよ…」とラズラは思わず心の中でエルティーナに突っ込む。案の定、頭を上下に動かし過ぎてふらっときたのか、またしても布団に埋まる。

 埋まっているエルティーナが、コロンと身体の向きを変えてラズラを見上げる。


「……アレンは、本当に素敵だしかっこいいわ。アレンに出会うまで、この世で一番かっこいいのはお兄様だと思っていたの。
 アレンは本当に素敵…なんです…。
 私が高いヒールを履いても見上げるくらい背が高いし。ちょっとふくよかな私でも、片腕で軽く持ち上げてしまうくらい腕力もあって。
 たっぷりある長い銀色の髪は宝石みたいにきらきらしていて。瞳の色は最高級のアメジスト。アレンの瞳の色以上のアメジストは見た事がないわ。
 美術彫像のように整った顔立ちはとても綺麗。顎から首筋までのラインはとても色っぽくて、思わず手を伸ばしたくなるんです。
 …近くにいると甘くていい香りもするんです。…とても…甘くて……甘くて……」

 いつの間にか、エルティーナの瞳からは涙が溢れシーツを濡らす。自分が泣いている事に気づいていない。

 アレンへの賛辞…エルティーナははじめて口に出した。侍女や社交界に来ている令嬢達がアレンを賞賛しても、エルティーナからは何も言わない。
 父にも母にも兄にも、ナシルにだって言わない。好きだって言わない。言わない方が長く一緒にいれるから。アレンの前でエルティーナは女ではなくて、…妹であり…子供である……。だったから……。
 初めて口に出した。エルティーナがいつもアレンに思っている事を。凄いのよ、素敵なのよ。エルティーナも皆と一緒に「かっこいい!! 素敵!!」と話をしたかった。


 ラズラはぎゅっと、胸元を掴む。恋をしている女性は儚くて綺麗で、そして切なくて胸に響き苦しくなる。

 泣いている事も分からず、愛おしげにアレンへの賛辞を話すエルティーナは、たまらなく美しい。
 ラズラは貰い泣きを誤魔化すためエルティーナに抱きつく。いきなりのスキンシップに驚くエルティーナに冗談まじりで笑いかける。


「エルティーナの表現力は二重丸よ。本書きになれるわよ。私が保証する」

「そう…かしら?」

「そうよ!」

「ふふふ、ありがとうございます」

「ねぇ。エルティーナは、乙女三冊と言われている中では断トツ『薔薇の姫と聖騎士』が好きでしょ!!」

「ど、どうして分かるんですか!?」

「分かるわよ。だって、聖騎士のモデルはアレン様で、薔薇の姫のモデルは貴女だもの。噂で聞こえてくるイメージと私の勝手な妄想だから、そこまで性格は似てないけどね。実際のアレン様はかなり過激だと分かったし……。
 まぁ…イメージの問題だから。かなり美化して書いているし実際とは違うから、ほとんどの人は貴女達だとは分からないわ。容姿のイメージも変えているしね」

 ラズラの発言に本の内容を思い出し、エルティーナは真っ赤になっていく。

「エルティーナ。やぁーね、また赤くなって。いやらしい〜」

「あ、赤くなってないわ。もう!!」

「薔薇の姫と聖騎士は、かなり過激で濃厚なラブシーンも沢山あるしねぇ〜。唯一年齢指定がかかっているし。想像してたの? アレン様で想像して、きゅんきゅんしたの? エルティーナはやっぱり、エッチだぁ〜」

「か、からかわないでください!!」

「きゃー! エルティーナが怒ったわぁ!!」

 二人で冗談を言い合う。

 大きなシルクのベッドはエルティーナとラズラが転がりすぎてシワシワだ。室内は、可愛らしい声が飛び交う楽園のようになっていた。

「……ねぇ。エルティーナは何故、アレン様と夫婦にならないの? 王女である貴女が伯爵家に降嫁だなんて…。その方と大恋愛をしたわけではないわよね。
 貴女が愛しているのはアレン様なわけだし。フリゲルン伯爵よりアレン様の方が貴女にはお似合いよ」

「………もう、決まった事です。私は、フリゲルン伯爵と結婚します」

「そう……」

 先ほどまで、きゃきゃと話していた雰囲気がなくなり、王女の仮面になった。もう覆らない事だと分かったし、聞いては駄目だと分かっている。
 でも腑に落ちない。家柄も見目も合い、周りの親族も二人を認めている。心までも一つの二人になんの障害があるのか??

 正直に心の中を明かして欲しくて……例えこの先、二人が離れても、繋がる何かをどうしても残したくて。

 だから…ラズラは話し始める。「私の最大の秘密を話すから。貴女と彼の秘密を教えて…」と心からの気持ちを込めて……。