アレンと二人、廊下を歩きながらジルベールはエルマンを思い出し、笑う。

「エルマンは本当に相変わらずだな……もっと上を目指したら良いものを……性格を除けばいい騎士なのにな」

「性格というより、性行為に対してオープンでは無ければだ。エルマンはゆる過ぎる」

「アレン…なかなか言うな……。
なぁ……あの絵姿の令嬢は、王女だろう??色々、その…失礼を言ったな…悪かった」

「何故謝るんだ?」

「王女の否定はなしか……。謝ったのは、王女の…その、身体的な事に口を出したからだ。
あの絵姿が王女なら、やはりレオンが王太子か……。昨日アレンが部屋に戻ってから、ずーーーっと彼女の自慢話で、噂に聞く以上の溺愛ぶりだった。
……お前達は、危ない橋を渡るのが好きなのか? 荒くれ騎士団によく入団したもんだ……。
後な、アレン……王女への恋慕。隠しているつもりなら、徹底的に隠せよ。
エルマンもレオンもまだ気づいてないが、お前の態度はすぐに分かる。
さっき王女の話をしていた時、色欲を含んだ男の顔になっていた。健康的な男として考えない、なんてことは無理だが、長く側に居たいなら、あぁいう顔はやめた方がいい。
お前が護衛騎士になったら、王女の婿ライバルは一掃されるだろう。
それまでポーカーフェイスを練習しておくべきだな。いちいち王女に欲情していたら、身が持たないぞ」

ジルベールの核心を突く発言に、呆然とし、アレンの顔に赤みが出る。
それを隠すため掌で口元を隠すと、あまり聞かないジルベールの笑い声があたりに響く。


「はっはっはっ、アレンでも照れるんだな!! しっかりやれよ、色男!!
あのグラマラスな身体は、お前のものだ!!!
しっかし、レオンとアレンに囲まれて育つ王女が可哀想だ……限りなく理想が高くなりそうだな……」


(「グラマラスな身体は、お前のもの……か。………病持ちの私が、エルティーナ様と身体の関係を持つ日は未来永劫こない……。
だが……嫁ぐまでは、…側にいたい。誰よりも何よりも、…一番でいたい。それが私の、たった一つの願いだ…」)

「………ふっ……そんな優しい顔も出来るんだな……王女もノックアウトだ」

「だと…いいがな……」



アレンはジルベールと別れ、騎士の宿舎に帰り、自室の窓から見える演習場に目を向け思いを馳せる。

(「私も、まだまだだな……。王や王妃、レオン。エルティーナ様本人にも、絶対にバレてはいけない……。バレた時点で、エルティーナ様とは一生…会えなくなる。
なまじ素肌で触れ合った経験があり、最後の一線は越えてないが、かなり際どいところまでしたからな。気をつけないと………。
あぁぁぁぁ、あれは、気持ちよかったな……」)

三年前のエルティーナとの甘い触れ合いを、彼女の手がたくさん自身の身体に触れたのを、細部までしっかり思い出す。
身体があつくなり、ふと皆の会話を思い出す。


「……私のサイズはデカイのか…?…他人の股間なんて見たことがないから、分からないな。興味もないし……」

汗を洗い流すのと、溜まったものを出す為に、シャワールームに入る。

「ポーカーフェイスか……どこまで出来るか……疑問だな………」





グラハの間では、食事が終わり。レオンはエルティーナをお茶に誘う。
エルティーナが大好きな庭園。可愛らしい動物の置物がふんだんに置かれた庭園は、まるで森の中のようだった。そこにキラキラ兄妹のレオンとエルティーナが入ると、さらに眩しくなる。

蔦が張り巡らされた天然の屋根は、陽の光を全て遮るのではなく、優しい光に変え二人をつつむ。


「そろそろエルに護衛騎士をつけようと思う。一応俺が、思う騎士はいるんだが、エルの意見も聞きたくてな。希望はあるか?
例えば、性格や、見た目、年齢、出来る限りは希望に沿うようにする」

「とくに希望はございませんわ。お兄様が思っていらっしゃる方で大丈夫です」

「そうか……ではまた、近々紹介しよう」

「はい!! 楽しみにしておりますわ」

真面目な話はここまでで、後は面白可笑しく近況報告をしあい、レオンとエルティーナは別れた。



その夜、レオンはアレンに護衛騎士の件を話すため、呼び出した。

「夜遅くに悪いな」

「いや、大丈夫だ。朝、演習場に行った後はずっと部屋に居たからな、こうして夜に庭園にいるのもいいものだな」

「……アレン。頼みたい事がある。強制ではないから、嫌なら断ってくれて構わない。
……俺には、妹がいて。年齢は11。一年後、12歳になる日から、アレンに護衛騎士になってもらいたい」

レオンの言葉は確信していたし、エルティーナに近づく為だけに騎士になり、レオンに近づいたから、想像通りだが幸せすぎて胸の鼓動が苦しかった。
恋い焦がれたエルティーナと会える権利……アレンにとっては何よりも嬉しい報告。
病に苦しみ生きてきて……今はガタのきている心臓さえも愛しく感じた。


「了解した」

「……はっ?……
嫌々、質問はなしか? 給料体制、期間、顔も名前も聞かないで、了解するのか?? おかしいぞ!?」

「申し訳ないが、私はレオンが王太子だと知っている。レオンの妹君、王女エルティーナ様の護衛騎士なら、騎士としてこの上ない栄誉だろう。断る理由はない」

「な、なんだとぉ!?!? 知っていたって!? いつからだ!?
それよりも、俺が騎士見習いとして入団しているのは秘密事項だぞ。お前はどこから、聞いた!! エルの護衛騎士の件も返答次第では無しだ。
信用できない奴に、エルを任せておけない!!」

「私の名前は、アレン・メルタージュ。父はボルタージュ国の宰相だ。知っていて当然だ。
レオンは知らなくとも、国王夫妻は私が騎士見習いとして、レオンに会っているのもご存知だ」


絶句しているレオンに、優しく微笑みながら右手を差し出す。

「護衛騎士として、エルティーナ様を全身全霊で護ると誓う。よろしく、レオン」


釈然としないままレオンは、出されている右手に己の右手を重ねる。

「………色々言いたいが。
お前は騎士としての実力、頭脳、身分、容姿、全てが最上級だ。……憎たらしいくらい。
エルの護衛騎士として、文句は無い。これからもよろしく、アレン」


闇夜を明るく照らす、二人の青年。

ボルタージュ国の伝説になる二人は、こうして出会い歴史を作る。