そんな二人の出会いから
二年後、、、。

騎士団専用の食堂では、騎士達が1日の疲れを癒しており、待ちに待った休日。朝まで飲むぞ〜と騒いでいた。

「パトリックは帰らないのか??」

「レオン…… 意地悪だな…… どうせ、俺には恋人はいないよ…… なんだよ、自分ばっかり」

机を囲んで食事をしているのは、レオン、アレン、パトリック、フローレンスだ。
部屋が近いのと、レオンがアレンの教育係と銘打たれた為、自然と四人が集まるようになったのだ。

レオンとパトリックが漫才のような話をし、食事をしていると周りに人が集まる。勿論目当ては、レオンとアレンだった。
乙女ではないから、レオンやアレンを見てキャー!! カッコいい!! なんてことにはならないが、どうせ酒を呑むのなら、美しい人を愛でながら呑むのがいいに決まっているからだ。
周りが遠目で見る中、四人に直に関わろうとする人もいる。

「俺達も一緒にいいだろう??」

軽そうな男エルマンと、陰険そうな男ジルベールが、四人のテーブルに近づく。

実はどの騎士も、目の覚めるような美貌のレオンとアレンには近づきたいが、どうしても怖くて… 主にアレンが…… 一緒の机でご飯を? とは言えなかった。よって、近くには寄るが同じテーブルにはつかない。
そんな中で、エルマンとジルベールだけは、いつもチョッカイをかけてくる。


「あぁ、どうぞ」レオンは二人に軽く返事をした。

「相変わらず綺麗だなぁ、アレン。一晩お願いしたいんだが、今晩どうだ??」

騎士としての腕もいいし、頭も切れるが、女癖の悪さ、「性交は気持ちいいんだ! 何が悪い!」と豪語する軽さでは右に出るものはいない男、エルマン・カンテ。
金髪に金眼、なかなかの美男子に女は簡単に騙されるのだ。

エルマンの流し目にも、我関せずと食事をとるアレン。
半分は冗談だが、半分は本気だった。

エルマンはバイセクシャルなのだ。自身も美しいとは思っているが、女でも男でも美しいものが大好きで、レオンとアレンはとくにエルマンのお気に入り。
さらに、金髪のレオンは自身に似ている為それほど心を動かされないのか、いつもプッシュをかけられているのはアレンだった。


「エルマン、その自慢の顔を醜く変えられたいのか? 私は男に興味がないし、身体を触られるのが何よりも嫌いだと、何度言えば分かる」

アレンは肩に置かれた手を払いのける。

「相変わらず、つれないな〜、そんなんじゃ恋人も逃げるぞ??」

エルマンは甘ったるく笑いながらアレンの横に腰を下ろす。


「おっ!? 座っていると、大きくて立派なのが分かるから、目の保養だ。いいなデカくて。羨ましいな。一回生で見てみたいよ」

「ぶぅっーーーー!!!!!」咳き込むパトリック……。

「……パトリック、汚い、拭いてほしい。机に飛んだ」

冷静なフローレンスだが、パトリックはまだ咳き込んでいた。レオンも若干噎せていた。

「……食事が不味くなるような事をこれ以上言うと……首を締めるぞ」

アレンの雰囲気が一気に変わったのを感じて、エルマン以下、噎せていたレオン、咳き込んでいたパトリック、机を拭いていたフローレンス、静かに酒を呑んでいたジルベールが、全員凍りつく。


「……悪かった ……もう言わないから怒るな」

エルマンもアレンをからかい過ぎたと反省し、きっちり椅子に座りなおす。
が………血気盛んな年頃の彼らだ。先ほどの話が気になって、全員がアレンの股間を見たいと思ったが、今この場では絶対、冗談じゃ済まなくなるからと断念した。

皆が、ほとぼりが冷めたらそれとなく見て見ようと思っていたのは、アレンは知らない 。


「エルマンは馬鹿だな、アレンを怒らせて何が楽しい」

ジルベールは苦笑しながら、エルマンのグラスに酒をつぐ。

「ふっ、初めて見た時は可愛いらしくて、抱きしめたかったくらいなのに、今はデカくなって……って睨むな、股間じゃなくて身長の事だからな!!」

「あぁ、それには、私も驚きました。レオンと頭一つ分くらい違いがあったのに、今では長身のレオンを抜いてます。何を食べたらそんなに背が高くなるんですか?」

マジマジとアレンを見る。フローレンスは何故か、レオンとアレンには敬語。どちらも身分は明かしてないが、敬語は不思議と浸透していて騎士団見習いの皆が、だいたいレオンとアレンには敬語で話していた。

「それは、俺も驚いた。二年前にアレンと会ったとき、こんなにガッチガッチの美術彫像の様な身体に仕上げてくるとは、思わなかった」

レオンはフローレンスの意見に軽くうなづきながら、アレンに視線を合わす。

「成長期だからだろう。それだけだ」

なんとも素っ気ない返答だった。なまじ顔が良過ぎるので、冷たい物言いは辺りを極寒に陥れる。
アレンが笑うところを見た事がない面々は、盛り上がらない話に、寒さを感じ撃沈していた。


(「くっそぉぉぉ……成長期だけで、そんな極限まで絞り込んだ肉体が造れるわけないだろう……!?!?
……謎な奴だ。アレンは、秘密の多いやつだからな…女とは言わず、人間全てに興味が無さそうだ……。何故騎士になったんだ??
考えても、分からないか……
それはいいとして、めぼしい奴が揃ったな、、、」)

二十歳を迎えるレオンはそろそろ、騎士見習いは卒業となり、騎士の称号を貰える。
騎士の称号を貰うまでに、どうしても一つ、しておきたい事があった。
食堂を見渡しそこそこの見習い騎士がおり、それは今か……と感じ、皆に見せるために、小さな紙に描かれた少女の絵姿何枚かを、テーブルに置いた。


「レオンなんだ、これは」

一番初めに食いついたのはジルベールだ。冷静沈着な彼だが、野心家であり家名がない彼は、名のある令嬢と結婚するつもりだったからだ。

「何に見える??」

「いいとこのご令嬢だね……」レオンの問いに、すかさずエルマンが入ってくる。

「あぁ、なかなか可愛いだろ? 俺の遠縁の子なんだ。あまりにも可愛くて、絵姿を何枚か貰ったのさ。見せびらかそうと思ってな!!」

笑いながらレオンは話すが、ジルベールは笑っていない。
「年齢は? 身分は? 長女か?」
ジルベールの質問攻めに、レオンは軽く引いていた。

「……身分というか家名は、言うわけないだろう。ここでは身分は言わない掟だ。この子の家名を話したら、俺の家名も暴露るだろ!!……年齢は十一歳だ」

「えっ!? レオン!? これで十一歳なのか!? 色々育ち過ぎてないか?? あっ分かった、多少大人っぽく描いてるか」
笑いながら話すエルマンにレオンは横に首を振る。

「少しも修正は加えてない。俺は何度も見ているがそのままだ。天使みたいなんだ」

「本当に可愛いですね。確かに天使みたいです。抱きしめてみたいです。柔らかそうですね」

「フローレンス、エロい。でも、分かるなあぁ〜まだ十一歳でこの色気は堪らないな。これで十六、十七歳の成長した姿は色々ヤバイな。
こんな天使を嫁さんにだと、毎日が楽しいな。とくにこれ、これ、この絵姿の満面の笑みがなんて可愛らしいんだ!!」

パトリックは楽しそうに話す。声が大きい為、他の騎士見習いも集まってくる。

「俺も見せてよ!!」
「わぁぁぁ、本気で可愛いですね」
「うわっ、本当に天使じゃん!!」
「この顔にこの身体は、反則ですね」
「いいですね!!」
「胸デカいなぁ〜」

皆々が、エルティーナの絵姿を見ては感想を述べているが、アレンだけが興味なさげにご飯を食べ、周りを煩く思ったのか、食事が終わったからなのか、席を立った。

(「うぉいっ!!! 相変わらずアレンはクールだな!! 一番お前の反応が知りたいのにぃ〜〜!? エルを見てくれ!!」)
レオンは盛大に心の中で、アレンに突っ込む!!


「待ってくれ、アレン、呑まないのか? いい酒もあるのに?」

「騒がしいのがあまり好きじゃないからな、悪いが先に部屋に帰る」

「アレン!!……えっと、アレンはこういう子はどう思う!! 凄く可愛いのに、身体は、グラマラスで なかなかいいと思わないか??」

エルティーナの絵姿をアレンの瞳の高さに上げ、質問する。レオンは若干必死だった。

「………どうも思わない。どんなにグラマラスでも、毛も生えそろってないような子供には興味がない」

「…うっ… …まぁ… そうだな……」


あまりのいいように絶句。
レオンにとってエルティーナは、最高に自慢の妹だったので、アレンの態度には腹が立った。少しだけ強い口調でアレンにエルティーナの弁護をする。

「確かにまだ、子供だが…大きくなったら綺麗になると思う。絶対に。
この子は、本当に本当に、性格も素直で優しくていい子なんだ、、、」

アレンはレオンの話を最後まで聞かず、踵を返し食堂を後にする。


アレンの後ろ姿を見ながら、レオンは溜息を吐く。
(「はぁ………。エルの護衛騎士を探していて、エルに簡単に手を出すような奴は困るから、そんな男を選ばないようにと思っている……。
……アレンは俺が思う理想そのもの。
騎士としても、立ち振る舞いから見て貴族だろうし、エルに全く興味がないのも、王女であるエルの側に立たせても文句無しの見た目も……完璧だ。
アレンで決定だが、エルが……恋をしてしまうだろう……あの態度だと、一瞬で失恋だ。それは少し可哀想だな。それに護衛騎士を断る可能性も高い…。騎士を目指すくらいだから嫡子ではないだろうが、中途半端な時期に入団してきたのも引っかかる………。
まぁ…なるようになるか………」)



何も話さず食堂を後にしたアレンは、誰とも目を合わせず騎士の宿舎に戻り、いきよいよくドアを開け中に入る。

ドアに背を預け、掌で顔を覆う。

アレンの白磁の肌は、薄っすらと紅く色づき、表情のない冷たさの顔面は、この上なく甘ったるい顔だった。

「…ぅぅあああ!!!……エルティーナ様………可愛い……可愛い………
はぁ………可愛かった……なんだあの可愛いさは??…反則だな……………
あぁ…あの絵姿…欲しいな、、、」

ここに誰かいたら気でも触れたか? と思うアレンの態度。

(「…興味ない振りは流石にあれが限界だな……あぁぁぁ、私もエルティーナ様の絵姿、たっぷり眺めたい。
三年前にお会いした時より、大きくなられたな。少し大人っぽくなり過ぎだが……。あの時、すでにかなり胸も大きかったのに……見た目と中身がアンバランスなのは心配だな……。
王女だから、しっかり貞操は守られているから大丈夫だと思うが………。
…あんな絵姿を、あんな場所で見せたら……確実に、夜のオカズにされるだろう…怒…レオンの奴……怒…。
……レオンがエルティーナ様の絵姿を皆に見せたのは、やはり護衛騎士の選別だな。
エルティーナ様の溺愛ぶりを見るからに、絶対に王女に手を出さないと確信を持てる男を選ぶ筈……。
レオンのあの態度から推測して、最有力候補は私だろう。
エルティーナ様のようなタイプは好きじゃないと、懇々と話して、態度で示している。
………きっと、また会える……もう一度、エルティーナ様に会える……
早く…………会いたい……名を呼んでもらいたい……それ以上は…
……決して求めないから………」)


アレンはそのままの姿で、ベッドに倒れこむ。その瞬間、心臓が縮み呼吸が止まる。
咳き込んだ後、口の中に鉄錆の血の味が広がる。こうして咳き込む度、エルティーナを思い出す。

優しく抱きしめる腕の温かさを、
滑らかで柔らかな肌を、
……三年前にお互いの肌を合わせた甘い感覚を思い出す。

熱を持つ身体を心地よく感じながら、アレンは瞳を閉じる。

夢でもいいから、会いたかった。