朝芳には、城の中に部屋が与えられた。
 広い庭園に面した、小体な部屋だ。

 今回の依頼は美人画とはいえ、肖像画に近い。
 殿様の寵姫である綾姫を描くのだが、さすがにそのような女子と二人で部屋に籠るのはよろしくない。
 そもそも姿を見ることも、通常であれば叶わない相手だ。

 庭園を歩く綾姫を、朝芳が離れたこの部屋から見、それを元に描いていく。
 そう言われ、朝芳はほっとした。

 それでも初めに綾姫を見た瞬間、朝芳の心は締め付けられた。
 筆を取る気にもなれず、だが目を逸らすことも出来ない。

 情けない、と思いつつも、言葉を交わすことがないことが、朝芳にとってはせめてもの救いだった。