そんな一介の町絵師に、殿様からの依頼が来た。
 自慢の寵姫の美人画を描いて欲しいというのだ。

「まぁ……殿様は、さして絵にお詳しくはないようだし、こちらからすると腕を振るう気にならんかもしれんが、名を売る機会だ、と思えばいい」

 朝芳は俯いて唇を噛んだ。
 絵師には偏屈者も多いし、どのような身分の者からの依頼でも、その気にならねば受けないことも珍しくない。
 だが今回は、世話になっている兄弟子が持ってきた話だ。

「……わかりました」

 膝の上で拳を握りしめ、朝芳は頭を下げた。