「わしは妖怪図を描けと命じた覚えはないぞ」

「はい、もちろん」

 平然と言い、朝芳はひらりと手を骸骨に差し伸べた。

 一瞬、骸骨の手が伸びたのかと思い、ひぃ、と殿様の喉が鳴る。
 それほどに、朝芳の腕と骸骨は色合いが似ていた。

「単なる美人画では面白くありませぬ。これは綾姫様の歴史にございます」

 訝しげな顔をする殿様に、朝芳は続ける。

「この骸骨は、綾姫様を襲う廻船問屋らです。こちらに男がおりますが、これが骸骨を操る術者、つまり船宿です。それを、こちらの男であるお殿様が成敗なさる」

 絵を指差し説明する朝芳を、ぽかんと見ていた殿様は、やっと納得したように頷いた。

「なるほど。わしが綾姫を救った過去が、ここに描かれておるわけじゃな」

「さよう」