兄弟子が持ってきた依頼に、朝芳(あさよし)は動揺した。
 忘れていた感情が湧き上がるのを堪えつつ、顔を上げる。

「わ、私がそのようなもの、務められるとは思えませぬ」

「何を申すか。お前の美人画が、恐れ多くもお殿様の目に留まったのだぞ。ありがたいこととお受けし、存分に力を発揮して来い」

 兄弟子の四郎兵衛(しろべえ)は、屈託なくそう言って、素直に弟弟子の腕を褒めてくれた。

 朝芳はこの四郎兵衛と共に師の元で学ぶ浮世絵師だ。
 巷では朝芳の武者絵が人気になり、ようやくそれなりに有名になったが、暮らしはそうそう楽にはならない。
 相変わらず兄弟子である四郎兵衛のところに住み込みで、四郎兵衛の手伝いをしながら絵を描いている状態だ。