黒猫の答えにみんな興味をなくしたのかすぐに持ち場に戻っていった。
唯一、カリンちゃんだけが不安そうに黒猫を見上げている。
私も居心地が悪くて思わずバッグをぎゅっと握って俯いていると、
「ん」
ずいと白いパックを突き出された。
「これ、俺が作った。倭人スペシャル。
サービスしとくから食べて?」
言われて私は目をぱちぱち。
おずおずと手を出してそのパックを受け取ると、
「倭人スペシャルって、ツナでも入ってんの?」
「何それ」
黒猫はちょっと笑った。
それでもすぐに真顔に戻ると、
「俺、あと十分で交代だから、一緒に回ろうぜ?」
とちょっと顔を赤くして呟きながら目を逸らす黒猫。
「……うん。待ってるから」
私は何とか頷くと、パックをぎゅっと握った。
―――
校舎の前のテントに“喫煙所”と書かれたテントがあった。
「食わないんスか?それ」
私の横でしゃがみながらタバコを吹かせていた溝口さんが上目遣いで聞いてきた。
私もタバコを口に含み、長々と息を吐き出した。
「今…おなかすいてないんです…」何とか答えると、
「じゃ、俺食っていいすっか」
と溝口さんの手が伸びてくる。
その手をぴしりと涼子が払った。
「それは黒猫くんが朝都の為に作ったものですから。ダメです」
「だって俺腹減ってんですもん」
と溝口さんが拗ねたような口調で口を尖らせる。
「じゃぁ涼子、溝口さんを連れて何か食べてきたら?」
私が提案すると、
「でも朝都一人でいいの?」と涼子は心配そう。
「大丈夫。黒猫が来るし……」
…と思う。
「青い春っすね~。朝都さんの彼氏、照れちゃって可愛いっすね♪」
溝口さんが意味深に笑ってタバコを灰皿に落とし入れると、出店のテントの方をぼんやりと眺めた。
「あの年頃の男ってのはさ、恥ずかしかったり素直になれなかったりするもんですよ。
複雑な女心を理解するのは、化学式を覚えるより難しいんすよ」
「妙に説得力ありますね。溝口さんもそうだったんですか?」
そっけなく聞くと、
「さあ、そうかもしれませんね~」
と、のんびりした返事がかえってくる。
食えない人。



