いや、まさに今黒猫に会いに行こうと飛び出そうとしていたのは私で…


「えっと…」


状況が掴めずに目だけを上げると、


「これ」


ずいとコンビニのビニール袋を目の前に突き出された。


「飲みもんとかプリンとか。あんた具合悪そうだったし。め…迷惑かもって思ったけどやっぱり心配で、


駅でこれ買ってる最中に涼子さんから電話掛かってきて


走ってきた。



ちくしょう、全力疾走なんて久しぶりだぜ」





黒猫は暑そうにしてこめかみの汗を乱暴に手の甲で拭った。



涼子……電話の相手は浩一じゃなくて、




黒猫―――……?




走ってきたからだろうか、ほんのり顔が薄桃色。


だけどその色が徐々に薄くなってくると、


「ってかあんた元気そうだね。胃は?」


と半目になって私を見下ろしてくる。


「あ…えっと……」と説明しようすると、





「朝都は恋の病で倒れそうだったの。


じゃあ黒猫くん、あとは朝都をお願いね~」





涼子は意味深ににやっと笑うと、玄関をすり抜けて帰っていってしまった。





「恋の病―――…?」






黒猫がまたもほんの少し顔を赤らめるとあたしを見下ろしてきて、






あたしはそれ以上に真っ赤になってしまった。




そう




あの痛みは





恋わずらいの痛みだったんだ―――