「もしもし…?」
黒猫がケータイでカリンちゃんと話している。
聞きたいような、聞きたくないような…
結局私は聞きたくなくて、タバコの箱を取り出すとベランダを目配せ。
「タバコ、吸ってくる」
と口パクで伝えて指差すと、黒猫も電話をしながら頷いた。
ああ…私って臆病者。
がくり、と項垂れてタバコに火をつける。
別にいいじゃない。隣で聞いてたって。
黒猫も隠してるわけじゃなさそうだし。
でも
でもね。
何か怖いんだよね。
何が…って言っちゃえばそこまでだけど、
わけの分からないもやもやイライラした感情…こんなのはじめてだ。
カエルを解剖してた方がよっぽど分かりやすいよ。
「色々…うまくできなくなったな」
私は煙を吐き出して、空を眺めた。
この頃すっかり日が暮れるのが早くなった。
空はオレンジ色から淡い紫色へと不思議なグラデーションを描いている。
「残念、今日はスカートじゃねーんだな」
電話を終えたのか黒猫がベランダに来て、私の隣に並ぶ。
「残念だったね。色気のない服装で」
嫌味っぽく言ってやると、
「そ?」
黒猫は意味深に目を細める。
な、なんだよ。



