私の言葉に黒猫はこくりと、小さく頷き、
またも私から顔を逸らす。
納得したのか、してないのか―――
私には分からなかった。
ただ、
黒猫のネコのひげみたいなピアノ線のような長い睫に、雨粒がくっついていて、
涙の雫がくっついているように見えた。
「くろ……倭人……?」
泣いてるの―――…?
思わず手を伸ばすと、黒猫はやっぱり泣いてなんかいなくて、大きな目で私をじっと見据えると
ふいに私を抱きしめてきた。頭を抱き寄られて、またも
おでこ、こつん。
黒猫のあったかい体温……雨の匂いにまじって香ってきたのは
おひさまと柔軟剤の香り。
浩一とは違った無邪気な香り―――
ふわふわした前髪の先が私の額を撫でる。
「ごめん。
ガキみたいなことして、朝都困らせて」
私は黒猫と頭を合わせたまま、ゆるゆると首を横に振った。
「もしかしてサ。俺が『話ある』って駅に呼び出したとき?
朝都、いきなり泣き出したもんな……そのあとこーいちさんが反対側のホームに来て、慌てて朝都を探してた。
あのときなんじゃね?」
そう聞かれて私は目を開いた。
あのときのことも…覚えてたんだ…
私は否定も肯定もせずに眉を寄せて黒猫の方をじっと見上げると、
「そんな前から―――…?」
と黒猫はちょっと声を低めた。
「…ご、ごめんなさい。伝えるのが遅くなっちゃって。
それにね、今日浩一と雨宿りのためちょっと廊下で一緒になった。二、三世間話をしただけって程度で、
雨避けに浩一が白衣を貸してくれただけで…」
「……うん」
黒猫は一応は納得したのか、小さく頷いて
私は僅かに濡れた黒猫の前髪を掻き揚げて、
「ね、そのままだと風邪ひいちゃう。
部屋に入ろう…」
私は再び黒猫の手をとって部屋に促すと、黒猫は今度は大人しく部屋に入った。



