黒猫はタバコを一本抜き出して口に挟む。
吸ったことない、って言ったのに黒猫の手馴れた仕草に私は目をまばたいた。
「朝都のや親父の見てるし、分かるよ」
タバコを口に挟んだまま私を見上げる少年は―――
私の知らない“男”の顔をしていた。
「や…やめなさい!」
バッ!
思わず乱暴にタバコを奪うと、黒猫はふっと自嘲じみて笑った。
「冗談だよ。てか水に濡れてんし、火付かないじゃん」
そう言われて、はじめてタバコのフィルターが雨粒で灰色に変色しているのに気付いた。
「………あ」
私は手の中にあるタバコを見て「は~」と深いため息を吐いた。
未成年者の喫煙を叱れるほど、私はいい子ちゃんじゃなかったけれど、やっぱダメだ。
良くないよ。
「…ほら、戻ってきなさい。雨に濡れてるじゃない。風邪ひいちゃうわよ」
私が部屋の中へ手招きすると、黒猫はまっすぐに私を捉えたまま視線を逸らした。
「言ってよ。違うって…」
黒猫が顔を逸らしたまま呟いて、その声は雨にかき消されそうだったけれど、ちゃんと私の耳に届いた。
「言えって!嘘でも、
俺は信じるから!」
もう一度強く……はっきりと黒猫の怒りの声を聞いて、私は肩を震わせた。
「俺、朝都のこと信じるから―――」
もう一度言われて、私は首をゆるゆると横に振った。
「浮気じゃない。
でも…ずっと言おうと思ってた……言い訳に聞こえるかも、だけど
タイミングが悪くて言い出せなかったんだ。
浩一から…告られたってことを―――
もちろんお断りしたけど」



