その後はタバコを吸い切っても一向に雨は上がらず、
「やべ!俺マウスの抗体実験中だった」と浩一が思い出して急にあせあせ。
とって付けたような言い訳に聞こえたけど、今更言い分けなんてしてこないだろう。
「それは大変ね」
実験中のマウスは時間と体の変化を緻密にデータとして残しておかなければならない。
浩一は時間を確認して
「戻らなきゃなんね」と言いながら私を振り返る。
「朝都、止みそうになかったらこれ使いな?」
バサっ
浩一は自分の白衣を脱ぐと、私に手渡してきた。
「雨避けだ。ちょっとぐらいならそれで行けんだろ?」
それだけ言い置いて、浩一はタバコの先の火を消して挨拶もそこそこに慌てて飛び出していった。
あとに残された私―――…
浩一の白衣を握って、まるで私たちの関係を表わすような雨空にぼんやりと外を見上げた。
―――
結局少しだけ雨が小降りになったときを見計らって私も研究室に戻った。
「せんぱーい、メール鳴ってたみたいスけど」
ドアを開けると、後輩くんが私の置きっぱなしになってたケータイをふりふり。
「あ、うん」
慌ててケータイを見ると
メール受信:黒猫倭人
となっていた。
To:朝都
From:黒猫倭人
今から会えない??
特に用があるわけじゃないけど、
会いたい気分
「会いたい気分」って…
打ってるとききっと黒猫顔赤くしてるだろうな…
ちょっと考えて思わず「ふふっ」と笑い声を漏らすと、
「なんスか?ラブメールっすか??♪」と後輩くんは興味津々。
「どうだっていーでしょ?」私はちょっと唇を尖らせてケータイを閉じた。
――――
私が黒猫指定の黒猫マンションの近くの駅に着くと、黒猫は閉じた傘の先で地面をつつきながら
私を待っていた。
ほんの少し俯いたその顔は―――いつも通りどこかつまらなさそうなけだるそうな表情だったけど
あれ??
景色のせいかな…
今日ちょっと顔色悪い―――…?



