「喧嘩はやっぱ体力使うしさ、疲れるけど
でもやっぱお互い言いたいこと言えるってすっげぇ大切なんだな、って
気付いた。
俺こそ子供みてぇなことしてごめん。
あのネコのこと、ガキとか言えねぇよな?」
浩一がまたも「はは」と笑い、私はそれに何も返せなかった。
浩一も答えを期待しているようではなさそうだ。
でもそれ以降…会話は途切れ、私は所在なく空を見上げた。
「雨…止みそうもないね」
さっきまで明るかった空は、今は本格的な雨雲へと代わりつつある。
「俺は―――止まないで欲しいって思ってる。
雨があがったら、理由なくここに居られないから―――
朝都と一緒に居られないから」
浩一がぽつりと漏らし、私はゆっくりと顔を戻した。
「雨があがるまででいい。
あのネコじゃなくて、俺だけのこと
考えて?」
浩一がしゃがんだまま、前を向いたまま真剣に言って、でもすぐに顔を覆うと
「俺、何ガキみたいなこと言ってンの。
すっげぇ我がまま。すっげぇ恥ずかしいし」
私は浩一の言葉に無言で頭を振った。
恥ずかしくないし、我がままでもないよ?
だって好きな人が違う人のことを考えて欲しくない―――って当たり前の感情じゃない。
私だって黒猫に、カリンちゃんや
ロシアン葵ちゃんのことを考えてほしくないし―――
頭の中まで相手のこと独占したいって考えるのは、当たり前のことなんだよ?
でもそれは口に出せない。
言ってしまったらきっと浩一を苦しめるに違いないから。



