「―――…なんてな。冗談に決まってンだろ?
そんなホストみてぇなことしてまでねぇ」
浩一は自嘲じみて笑うと、ちょっと前髪を掻き揚げた。
じょ…冗談…?
「まー…でも、朝都が応援(?)してる溝口さんまで嫌ったりとか…そんな小さな男になりたくなかったからってのはあるかな」
「こ、浩一は小さくなんてないよ」
慌てて言うと、
「前、お前に言われましたケド?
小さいヤツだって」
浩一はいつも通りの意地悪そうな笑顔を浮かべた。
あ。また軌道修正―――……
てか、浩一…根に持ってンな。
「ち、小さいとは言ってないわよ。“つまらない”とは言ったケド」
「どっちも同じ意味だ?」
浩一は普段通りの明るい笑顔を浮かべて、「ははっ」と笑う。
私もそれにつられて笑った。
「嘘。
つまらない、なんて嘘だよ。
あのときは
ごめんね」
雨の音に消されないよう、私は浩一の目をまっすぐに見つめてはっきりと言った。
浩一は目を上げて―――
はにかんだようにちょっとだけ笑う。
「考えたらさー、俺たち喧嘩ってはじめてだよな」
浩一が言い出して、「そうだっけ?」と私は首を捻った。
「うん…はじめてだ…
意見の食い違いがあって俺が怒ってもさー、朝都は『何でそんなことで怒るの?』っていっつも冷めた目で見てきてさ、
なんかそれを見ると、怒ってる俺がバカらしくなっちまうんだよね。意気消沈ての?」
「た、確かに『何でそんなことに怒ってんの?』ってことは考えたことがあるけど、
でも!私冷めた目なんてしてないもん!
私は元々こんな目よ!」
とちょっと目の端を指で吊り上げると、浩一はまたも声を出して「ははっ」と笑った。
「俺ときどき…てか結構?
朝都って何かに怒ることとかあるのかなー…って思ったりしたこともあったけど
いや、怒ることはそりゃ誰だってあるだろうけどさ、あんま起伏がないて言うか…
だからあんな風に怒鳴った朝都を見るのはじめてでさ。
正直戸惑った」
浩一は僅かに目を伏せて、
でも『戸惑った』と言う割には口の端に穏やかな笑みを浮かべている。



