Chat Noir -バイオハザー度Max-




思えば浩一とこうやってタバコを吸うのも随分久しぶりだ。


前はどこかしら喫煙所で顔を合わせていたのに…




「あ、あのさ。


機械、溝口さんとこに決まりそうなんだってね?



もしかして浩一が教授に口添えしてくれたの?」





ずっと気になってたことを聞いて、私は煙を吐き出した。


「口添え…ってそんな大したもんじゃないよ。


溝口さんだったらしっかりしてるし、後々のことを考えてアフターサービスが充実してるんじゃないですか、ってちょっと言っただけ。


溝口さんにでも聞いたの?相変わらず仲いいな」


浩一は嫌味じゃなく、普通にさらっと聞いてきた。


「溝口さんから直接聞いたわけじゃないよ。


あんたんとこに出入りしてたあの女の営業さんが言ってたの」


「ああ…」


浩一は納得したように頷いて、ため息とともに煙を吐き出し、その場にしゃがみ込んだ。


「…も、もしかして…わ、私が前に業者との癒着問題になるかも、って言ったから?」


ちょっと心配になって浩一を見下ろすと、浩一は目だけを上げて






「んなわけねぇって。



朝都の気を引きたかったから、に決まってんじゃん」






と呟いた。


ザー……


雨音が一層強まって、私の耳朶をうつ。


だけど浩一の言葉はそれ以上に強く



私の鼓膜を



私の脳を




刺激する。




ポツン…


渡り廊下の屋根から滴り落ちた雨の粒が一滴、くぼんだ地面の水溜りに落ちて波紋を呼ぶ。





軌道は修正されることなく、狂ったままの円を描いて


私の中を



ぐるぐる



ぐるぐる―――




出口のない迷路のように、狂ったように円を描く。