「はー…」


浩一が大きなため息をついて


「いつ止むんだろうな」と私に問いかけてくる。


キマヅイのは私だけじゃない、浩一だってそうだ。


私たちの間に流れる空気は確かに


あのとき変わったはずなのに―――


狂った軌道を修正するように


浩一は前のような関係に修復しようと、精一杯がんばっているように思えた。


「西の空は明るいから、たぶんすぐ止むよ」


私は白衣のポケットに手を突っ込んで空を見上げた。


「お前も一本どお?」


ふいに聞かれて、私が振り返ると、浩一はセブンスターの箱を私に向けていた。


近くに使い古したステンレスの灰皿が設置されている。ここは喫煙所の一部だ。





だけど喫煙しにきた学生は居なくて、今私たちは二人きり―――





「あ…ありがと」


私はその箱に遠慮がちに手を伸ばす。


「あ。やべ。火忘れた」


浩一は白衣の上からぽんぽんとライターを探している。


「私、持ってるよ」


白衣のポケットからライターを取り出すと、いつもの癖でライターをそのまま渡すんじゃなくてその場で火を灯して浩一のタバコの先に近づけた。


特に深い意味なんてない。


だけど


「…わり」


浩一は遠慮がちに言って、私のライターに顔を近づける。


その遠慮がちな行動が―――その不自然なほどぶっきらぼうの言葉が





今までの関係で居られないこと、


私たちの間に流れている空気が以前とは違うことを





物語っていた。




狂った軌道は―――もう二度と…元には戻らないのだろうか。