―――


あれから三日後。


ザー…


「うっわ!急に降ってきたよ」


構内の研究棟に移動の最中、思い切り雨に降られた。空は明るいのに、小雨で予告するどころかいきなりの大雨。


天気雨かな。


予期せぬ大雨に、慌てて近くの渡り廊下に駆け込んで雨宿り。


白衣についた雨粒を手で払っていると、


「何だよ!急に降ってきやがって。うっわ、レポートぐしょぐしょ」


と避難組が駆け込んできた。


ご愁傷様ね。


と心の中でちょっと手を合わせて……だけど


黒猫より高い背の影が私をすっぽりと包み、その広い背中からは雨の匂いに混じって僅かな香水とタバコの香り……






「浩一……―――…?」





私の姿に最初気付かなかったのだろう、浩一がゆっくりと振り返り、私を視界に入れると目をまばたいた。


「朝都―――…なん…お前も雨宿り?」


と強引に苦笑を浮かべて空を指でさす。


医務室で別れて以来だ。浩一とこうやって話すのは。


前はどんなことも気軽に話せた。





なのに今はこんなにも空気が重苦しい―――


でもそれは浩一も同じだろう。




空は明るいのに雨が降ってる。


そんな相反する不可思議な光景のように、私の心も複雑だった。





「…レポート…大丈夫?」


何を話せばいいのか分からなかったから、当たり障りのない挨拶みたいな言葉を投げかけてみた。


「あー…うん。パソコンにバックアップとってあるから、印刷してまた提出すればいいだけの話だし…」


浩一も挨拶を返してくる。


「「………」」


ザー…


沈黙をかき消すかのように雨の音。


いっときの雨宿りだし。雨がやんだら目的の場所へ向かうつもりだ。


しかし雨音が弱まることはなかった。


天のお告げか?


これは天が授けたチャンスだ―――って。




ちゃんと話し合えるタイミングをくれたんだって。