「朝都、行くぞ」
黒猫は急に立ち上がり、まだ飲み掛けのカフェオレが乗ったままのトレーを持ち上げた。
「え…行くって…まだ途中…」言いかけたけれど、黒猫の不機嫌な視線に見下ろされて私も慌てて席を立った。
「もー行っちゃうの?」
と、ロシアン葵ちゃんだけがつまらなさそうに唇を尖らせている。
「あ…ごめんね?」と一応断りを入れて頭を下げるも、
「行こうぜ」と黒猫に強引に手を引かれて、結局その場を立ち去ることになった私たち。
「えー、葵と別れて何であの人にいく~?葵の方が全然若くて可愛いし」
と友達の方が明るい声を出して笑って、私は身を縮めた。
当たってるケド、感じ悪い……
イマドキのお嬢様ってあんな感じなの?
素直なカリンちゃんが凄く可愛く思えるよ。
黒猫にぎゅっと握られた手が、いつも以上に力強く感じる。
「ごめん、なんか嫌な思いさせて」
ぼそりと呟いた声に元気はなかった。
「……うん…大丈夫」
そう答えるしかない。
「またね、おねーさん。
またね
倭人」
遠くの方でロシアン葵ちゃんがにこやかに手を振っている。
私はロシアン葵ちゃんに
「またね」
とは、返せなかった―――
私たちは手を繋いだまま、無言で電車を待っていて、私はロシアン葵ちゃんの存在を考えてばかりで、
結局浩一とのことを言い出せなかった。
黒猫も隣でだんまり。
何を考えてるのか知りたかったけど、知るのが
怖い。



